インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

フィンランドの “SISU” を勝手に感じてみる

カトヤ・パンツァル氏の『フィンランドの幸せメソッド SISU』を読みました(柳澤はるか氏翻訳)。


フィンランドの幸せメソッド SISU

“SISU(シス)”というフィンランド語は他言語にひとことで翻訳するのが難しい概念のようですが、この本の第一章にはこんな形容があります。

フィンランド独特の「意志の強さ」であり、決してあきらめず、安易な道に逃げない「強い心」。

試みにネットで検索してみたら、ウィキペディアの英語版にはこのような解説がありました。なるほど、英語でもぴったりの言葉はないんじゃないかと書かれていますね(日本語版の解説はありませんでした)。

Sisu is a Finnish concept described as stoic determination, tenacity of purpose, grit, bravery, resilience, and hardiness and is held by Finns themselves to express their national character. It is generally considered not to have a literal equivalent in English.
Sisu - Wikipedia

上記のWikipediaには “national character” だとも書かれています。そのため「フィンランド魂(だましい)」と訳されることもあるようで、松村一登氏のウェブサイトにあるこちらのページにも詳しい解説がありました。

www.kmatsum.info

とにもかくにも、この本ではその翻訳しにくいフィンランド語 ”SISU” をめぐって、その “內涵”(う〜ん、これも意外に翻訳しにくい中国語です。その言葉が内包する概念とでもいいましょうか)を、フィンランドに移り住んだカナダ人(もともとフィンランド系のご家族だったそう)であるカトヤ・パンツァル氏が暮らしの中で体感していく経緯が綴られています。

北極圏を含む厳しい気候風土、ロシアやスウェーデンなど隣国の圧力や支配に抗してきた歴史などから育まれたのであろう “SISU” という一種の「生き方の態度」について、この本では子育てや教育、労働、健康作り、環境への配慮、デザインとライフスタイルなど様々な切り口からその実相を探っていくのですが、私が最も興味をひかれたのは冒頭に出てくるサウナと「アイススイミング」でした。

サウナはともかく「アイススイミング」とは? それは氷の張った海や湖に裸で入るという、聞いただけで気が遠くなりそうな行為のことです。とはいえ単なる奇矯な行動ではなく、疲労やストレスなどが解消される「冷水治療」であり「ウェルビーイング(心身の健康)」を保つための一手段なのだそう。そういえば日本でもサウナの隣に「水風呂」が設置されているところがありますよね。私も九州に住んでいた頃は田舎の温泉で水風呂に浸かったことが何度かあります。

当時の私はあの「水風呂」について、熱いお湯に気合いで浸かっちゃう江戸っ子おじさん的な行動くらいに軽く捉えていたのですが、ひとつだけいまでも印象深い点があります。それは浸かった最初はかなりつらいものの、すぐに身体が順応して逆に内側からポカポカしてくるという点です。アイススイミングにも同様の反応があるそうで(当然ですね)、この本ではそこから得られる身体上の反応に加え、心の変化や「気づき」の奥深さについて多くの紙面が割かれています。

いつかまたフィンランドを旅して、前回は行けなかった本場のサウナと、できればこのアイススイミングも体験したいです。Amazonを渉猟して、こんなムックも買っちゃいました。


Coyote No.60 SAUNA for Beginners

ああ、今すぐにでもあの森と湖の国に飛んでいきたいところですが、そうもいきません。というわけで、上述の『フィンランドの幸せメソッド SISU』を読んでからというものの、毎日お風呂に入る際に、最後に冷水シャワーを浴びています。心臓に負担がかからないようにほんの少しお湯を混ぜつつ、手足の先からゆっくりと。

氷の張ったバルト海に飛び込むようなアイススイミングに比べたらずいぶん「へたれ」ですが、それでもいざ冷水を浴びるとなると多少の勇気が必要です。なるほど、こういう時に行う小さな覚悟もまた “SISU” なのかも知れません。そしてそれを三日坊主でやめずに続ける、ささやかな意志の強さもまた。

ということで昨日は調子に乗って、自宅近くの銭湯に行ってきました。銭湯に行くのも久しぶりです。ここはネットでも評判のサウナと水風呂があるんですけど、これまで一度もチャレンジしたことはありませんでした。何十年かぶりのサウナと水風呂は、それはもう……ものすっっっっごく素晴らしい体験でした。サウナってこんなに気持ちの良いものでしたっけ。

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https://www.irasutoya.com/2017/11/blog-post_972.html

ネット情報によれば、この銭湯の水風呂はサウナ通のみなさんも「なかなかのもの」とうなる15℃ほどの低温だそうで、入る前はちょっと身構えて自分を鼓舞したりなんかしていたんですけど(これも“SISU” っぽい)、入ってみたら自宅の冷水シャワーよりずっと快適でした。サウナと水風呂を何度か繰り返して、最後は水風呂で〆て出ると、身体が内側から温まってきます。寒空の下、心から満ち足りた気分で家路につきました。

こうやって自分をささやかな、しかし新しいチャレンジに向かわせてくれる力、これもまた “SISU” の成せる技なのかもしれません。