インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

ポリリズムと変拍子

ポリリズム」という曲をご存じでしょうか。

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10年以上も前に発売された、Perfumeの代表作となっているこの曲。この「ポリリズム」が世に出る前の経緯をウィキペディアで読むと、少なからず驚きます。途中で出てくる複合拍子(ポリリズム:二つ以上の異なる拍子・リズムが同時に演奏されること)の循環(ポリループ)について、「レコード会社・所属事務所双方からの反対があった」というのです。

レコード会社である徳間ジャパンコミュニケーションズ側からは「音飛びと間違われ不良品扱いされる恐れがある」と難色を示されていた。(中略)また所属事務所であるアミューズ側は、テレビやラジオなどで披露できないことを理由としてポリループ部分の変更を決断した。
ポリリズム (Perfumeの曲) - Wikipedia

未知のもの、新しいものに対して、「前例がないから」とか「失敗したら誰が責任を取るのか」などの理由で頑なに拒絶反応を示す、まあ「抵抗勢力」とでも言うんですか、そういう人たちはどの業界にもいるものですが、芸術の最先端を切り開いていくべきレコード会社やプロダクションでさえも例外ではないんですね。

もっとも、純粋な芸術の追究ではなく利益が出るかどうかの「商売」をやってらっしゃる方々の理路からすれば当然の反応かもしれませんけど。でも、ポリリズム自体は特に未知でも新しくもなく、様々な民族音楽や古典から現代につながる音楽の中で繰り返し扱われてきた素材ですし、この曲が大成功したことを知っている現在から批判するのはずるいとは思いつつも、当時の「抵抗勢力」さんたちの反応(それも芸術やエンタテインメントを扱う業界の方々の)に、ちょっと驚きを禁じ得ません。

それにしても、そうした「抵抗勢力」さんたちに対して、くさらずに説明や説得を繰り返し、しぶとく対案も提示しながらこの曲を世に送り出した中田ヤスタカ氏(この曲の作詞作曲者です)の粘り腰には学ぶべきところがたくさんあると思います。私のようにとても短気で「イラチ」な人間は、特に。

このPerfumeポリリズム」に関しては、YouTubeにとても面白い動画があります。不思議な大阪弁を駆使するDr. Capital氏によるこの動画、とても分かりやすくポリリズムが解説されています。

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ポリリズムを使った楽曲は、よほどリズム感に長けていないと演奏したり歌ったりすることはできないでしょうね。私はあまりリズム感が備わっていないせいか、逆に昔からこういうポリリズム変拍子に興味があって、好んで聴いてきました。

例えばスティーブ・ライヒ氏の「オクテット(八重奏)」という曲は、五拍子で書かれています。一小節に四分音符が四つだと4/4、つまり四拍子なのですが、この曲は5/4、つまり一小節に四分音符が五つ入り、それが繰り返されていくのです。

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こうした楽曲は、四拍子や三拍子など身体になじんだリズムとは異なっているので、聴いているとなんだか身体が内側から揺さぶられるような感覚を覚えます。

スティーブ・ライヒといえば「フェイズ・シフティング」といって、最初はユニゾン(複数の音や声が同時に重なって行われる演奏)だった複数のメロディループが徐々にずれていくことで重層的な音を作り出していくという手法があり、こちらは聴いているとちょっと気持ち悪くなるような感覚がある(例えば「ピアノ・フェイズ」など)のですが、「オクテット」の五拍子はむしろ規則正しいかっちりとした構成で、なおかつ日常とは異なる新鮮な感覚を味わうことができます。

仕事で思わぬ「抵抗勢力」に出くわしたり、「わからずや」の上司に歯がみすることがあったりしたら、ポリリズム変拍子に身を委ねて中田ヤスタカ氏の「粘り腰」を思い出してみるのもいいかもしれません。人によってはかえって神経が参っちゃうかもしれませんけど。

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追記

上記のDr. Capital氏によるこの米津玄師「Lemon」の解説も、とても聴き応えがあります。

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専門家によるこうした解説は本当にありがたいですね。井上ひさし氏の「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに」を思い出しました。