インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

2020年の「アレ」に対する危機感

先日、ノンフィクション作家・安田峰俊氏のこの記事がTwitterのタイムラインに流れてきました。

bunshun.jp

わははは、同感です。でも日本代表が決勝リーグに進んだということで、新聞やテレビなどマスメディアではさらに大々的に報道が流れてきていますから、一見すると世の中「真っ青」に染まっているような気がするけれど、安田氏のように考えている方は今やけっこう多いんじゃないかと思います。

スポーツへの同調圧力という点では、私の子供時代はもっとひどかったように思います。特に男の子は野球かサッカーをやっていないとほとんど「仲間はずれ」「いじめ対象」の扱いでしたし、夏休みを返上で強制的にプールで泳がされましたし、就職した会社でさえ業界の野球大会に休日返上で有無を言わせず参加させられました。

今でもその傾向は依然根強いかもしれませんが、少なくともそれらを相対化する見方も市民権を得つつありますし、ハラスメントではないのかという批判もきちんと世の中で議論され始めています。上記の休日返上で野球大会なんて、大問題になりますよ(いまでもそういう文化は残っているのかな)。

現代はスポーツだけが至上の価値ではなく、オタクも腐女子もゲーマーも草食系もいて、それぞれがそれぞれの居場所とステイタスを持っていて、昔よりはよほどいい時代になりつつあるんじゃないかと思います。明るく「五輪反対〜!」とさえ言えますしね(今のところは、ですが)。

qianchong.hatenablog.com

私は職場でもプライベートでも「サッカーや野球にはこれっぽっちも興味ありません」というのを普段から公言していますので、まわりも気を使ってくださって、私にはそういう話題を一切ふってきません。ありがたい限りですが、それでもここんとこ、サッカーワールドカップで日本チームが快勝や辛勝を重ねて決勝トーナメント進出を決めたあたりから、さすがにちょいと同調圧力が増したような気がします。こういうとこ、スポーツ嫌いの人間は逆に敏感なんです。

例えば冗談めかして「徳久さんはこういう話題お好きじゃないでしょ」とわざわざ振ってくる方がいます。もちろん軽いギャグであり、悪気は全くないのです。私もそれは重々承知なのですが、サッカーワールドカップでなければそんな話題の振り方さえまずあり得ないですよね。昨日は確かフィギュアスケート羽生結弦選手が国民栄誉賞をもらったはずですが、「徳久さんはフィギュアなんてお好きじゃないでしょ」的に話題をふってくる方はいません。

これは端的に言ってフィギュアスケートが全国民的に応援すべき・されるべきスポーツ種目とは認識されていないからです。五輪などでメダルがからむときはさすがにニュースのトップになりますが、サッカーワールドカップの「大騒ぎ」と比べれば、やはりその規模がまったく違うでしょう。この点で、サッカーワールドカップは他とは少々異なる「危うい」側面を持ったイベントだと私は思います。ふだん充分に個人の自由を尊重してくれる知人でさえ,ちょいと諧謔で「こういう話題お好きじゃないでしょ」からかってみたくなるような何かを持っているという点で。

何を大袈裟なことをとおっしゃいますか。そうかも知れません。でも私は二年後に迫った、今次のサッカーワールドカップの比ではなさそうなあの巨大スポーツイベントのことを考えると、いくら杞憂といわれようとも憂鬱な予感を払拭することができません。よほどの心の準備をしておかなければ、熱狂的な同調圧力に心身共にやられてしまいそうな予感さえしています。私たちのこの国は、かつて大規模災害の際に流言飛語や集団的熱狂の末に犠牲者を出したことがあり、今また「非国民」という言葉が亡霊のように甦って最先端のヘイトと結びつきつつあることに敏感になっておかない理由はありません。

2020年の「アレ」はひょっとすると私たちに予想もしなかった影響や副作用をもたらすかもしれません。楽観的な夢や「レガシー」や経済効果やらばかりが先行する中、報道にもポツポツと現実の懸念材料があがりはじめています。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2018062702000174.htmlwww.tokyo-np.co.jp
www.yomiuri.co.jp

常識で考えればそんなバカな話はあり得ないはずなのに、そのバカな話が実際に起こり続けているのがここ数年のこの国のありようです。あり得ないほどバカな話が現実に起こる可能性は誰にも否定できません。「アレ」は、半世紀以上前の同じイベントとはまったく違う世界の中で開かれるのだということに、もう少し危機感を持った方がよいのではないか、自分自身に再度そう言い聞かせるつもりでここに書いておこうと思います。

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