インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

アスリートも黙ったまま同調しないでほしいのです

一週間ぶりにジムのパーソナルトレーニングに行きました。東京都に緊急事態宣言が出されてからというもの、いつも出勤前に行っていた大手鉄道会社系のジムは休業が続いていて、ウェイト系のトレーニングがまったくできないので身体がなまってしかたがありません。なので一週間ぶりにベンチプレスなどをやって、とても爽快な気分でした。

日曜日の、それもジムの営業開始とともに入って一時間ほどトレーニングをします。本当は平日の退勤後にも通いたいのですが、夕刻のこのジムはけっこうな「密」になっていて、少々たじろぎます。加えて、こちらのジムでトレーニングをしているプロやセミプロ、学生さんのアスリート(野球やサッカーなどの選手が多いです)は、なぜかそのほとんどがマスクをしていないのです。これはちょっと感染の拡大が怖い。それで、アスリートのみなさんがまだやって来ない週末の早朝のうちにトレーニングをしに行っているというわけ。

どうして若いアスリートのみなさんの多くがマスクをしていないんでしょうね(もちろんしている人も少数ながらいますが)。ジム側からマスク着用を要求しないのも問題ですけど、なんですかね、アスリートの一部には「マスクなんてめんどくさい」、「マスクなんかしてたらパフォーマンスが上がらない」という考えの人がいるんでしょうか。だとしたら、あまりに今の社会状況を分かっていないというか、もっと率直に申し上げれば物事をきちんと考えることができていないと思います。

もちろん、マスク着用は法律で定められた義務でもありませんし、私自身「マスク警察」みたいになるのは望みません。だからこれは人それぞれの考えで仕方がないかなと思い、アスリートのみなさんを避けることができる時間帯を狙ってジムに行っているわけですが、この一部のアスリートに見られる社会性のなさというか常識の希薄さには、やはり少々首を傾げざるを得ません。

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https://www.irasutoya.com/2020/02/blog-post_418.html

折しも東京五輪が狂ったように強行されようとしているなか、その状況に対して声を上げないアスリートに一部で批判が起こっています。またそうした批判に対して「一生懸命頑張っているアスリートにそれを求めるのはお門違いだ」という批判も寄せられています。

私は、単なる金儲けのイベントに堕してしまって今やアスリートのためでもスポーツ文化のためでも全くなくなっている五輪は、永久に廃止されるべきと思っている人間です。……が、それでもアスリートのみなさんがそこに憧れる気持ちや、そこに向かって努力する姿勢を全く理解できないわけではありません。

特にマイナーなスポーツで食べていこうとしている方々にとって、五輪の存在が大切なことはある程度まで理解できます。「ある程度まで」というのは、そこに全人生を賭ける姿勢自体は疑問(というかお勧めしない)なのと、マイナーな分野で頑張っている方々はなにもスポーツ界だけにいるわけではなく、しかも今時のコロナ禍ではみな等しく影響を被っているわけで、アスリートだけが優遇されるのはやはりどう考えてもおかしいと思うからです。

そんななか、元ラグビー日本代表で大学の教員でもある平尾剛氏の、こんな記事を見つけました。
www.asahi.com
「アスリートである前に一人の人間であり、身の回りの現象や出来事について考えたことがあればおのずと言葉は生まれてくるはずです」。同感です。実際には、その種目の競技団体やスポンサー企業との関係やヒエラルキーの中で、発言したくても発言できない、発言したら食べていけなくなる……という苦しい状況に置かれている方も多いのではないかと思います。だからそういう状況にあるアスリートに厳しい言葉を発するのは忍びない。

でも平尾氏のおっしゃる通り、私は、アスリートも、特に五輪に出場できるほどのトップクラスのアスリートであればなおさら、現状に対して何らかの意思表示をすべきではないかと考えます。今はその言葉がほとんど聞こえてこないのが悲しい。ハンナ・アーレントは「道徳哲学のいくつかの問題」という論考でこう言っています。

こうした問題の議論において、とくにナチスの犯罪を一般的な形で道徳的に非難しようとする際に忘れてはならないのは、真の道徳的な問題が発生したのはナチス党員の行動によってではないということです。いかなる信念もなく、ただ当時の体制に「同調した」だけの人々の行動によって、真の道徳的な問題が発生したことを見逃すべきではないのです。(ちくま学芸文庫責任と判断』91ページ)

ナチス批判まで持ち出してしまってごめんなさい。もちろんこれは、ひとりアスリートだけではなく、私たちすべてが負っている責任だと思います。だから私たちがアスリートのみなさんを「妖魔化」して悪者に仕立て上げるようなことはしたくありません。でも、だからこそ、アスリートのみなさんも現状の社会情勢をきちんと見つめ、考え、発信し、行動してほしいと願っています。黙ったまま同調しないでほしいのです。私も努力してそうしたいと思います。

うん、やっぱり、次回あのジムに行ったら「この状況下でマスクをしないのはなぜでしょうか?」と聞いてみよう。できるだけ「マスク警察」っぽくならないよう、ていねいに言葉を選んで、相手を尊重する態度を失わないよう気をつけながら。