インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

「タバコがかっこいい」だなんて、いつまでそんなことを言ってるの?

ここ十年ほど、おなじお店で髪を切ってもらっているのですが、若いスタッフさんが選んで目の前に置いてくださる雑誌が興味深いです。たいがい『BRUTUS』と『PEN』と『モノ・マガジン』。ここに、たまに『LEON』が加わります。スタッフさんの目には「そういう系のおじさん」に見えるわけですね。私としてはむしろ『クロワッサン』とか『レタスクラブ』とか『家庭画報』なんかが好みなんですけど。

でもまあ、ありがたく拝読していて、ちょっと気になる広告を見つけました。デザイナーの山本耀司氏が出演しているタバコの広告です。実は私がいま嘱託でうかがっている学校が山本氏の卒業校でして、かの学校においては山本氏がそれこそ「神」にも近い憧れの存在として認識されているのを仄聞しており、それで目に止まったというわけです。

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しかしこの時代に、いまだ「タバコはかっこいい」というメッセージをストレートに押し出すのはどうか、それも時代の最先端にいるはずのファッションデザイナーが……と思うんですけど、山本氏は従来から「タバコ好き」を自認されているようで、ネットで「山本耀司 タバコ」で検索すると、氏のお考えを披瀝する数々の記事がヒットしました。

www.wwdjapan.com
www.wwdjapan.com
fashionjp.net

特に最後の記事は、ある意味読みごたえがあります。「シンガポールは路上でタバコ吸うと罰金取られるから、清潔で好きじゃない。俺が好きなのはダウンタウン」と雑多な猥雑さを肯定しつつ、そのすぐ後で「中国の子たちは、俺と握手すると感激してくれる人がいたりして、シンプルだなあ。シンプルな強さはすごい」とあっさり「複雑系」を否定していて、咀嚼は容易ではありません。

うちの学校の生徒さんたちは、ファッション関係のお仕事を志している人が多いので、みなさんそれぞれに「とんがって」て素敵だなと思う一方で、いまだに「タバコ=かっこいい」という時代錯誤な価値観に染まっている方が多く、キャンパス内のそこここが煙たくて閉口していましたが、なるほど、こうした先達がいたからこその校風だったのかもしれません。

……と思っていたら。

新年明けて間もない先日、学内イントラネットのメールボックスに総務部から「受動喫煙ゼロキャンパス宣言」のお知らせが入っていました。

本学園は、多数の者が利⽤する公共性の⾼い施設であることを踏まえ、他⼈のたばこの煙を吸わされることのない「受動喫煙ゼロキャンパス」の実現に向け、全学で取り組むことを宣言します。

喫煙は、喫煙者自身の健康を害するとともに、受動喫煙により非喫煙者の健康にも重大な影響を及ぼします。特に、本学園の構成員の約半数は未成年者であり、未成年者の喫煙は法律で禁止されております。

豊かな社会の実現のためには、その構成員が健康であることが重要であり、心身の健康は、生産性や創造性の向上と直結し、社会の発展に大きく寄与します。

本学園は、社会に貢献する⼈材を育成する教育機関として、未来ある学生、そこで働く教職員をはじめ、広く地域住⺠や学内外のあらゆる関係者の健康確保を社会的責務と考え、喫煙による健康被害の啓発、受動喫煙の防止、喫煙者の減少に積極的に取り組みます。

この宣言のもと、各種の啓発活動や、キャンパス内の喫煙環境改善のための取り組みを積極的に推進していくとのこと。素晴らしいではありませんか。それでこそ、今とこれからを生き・活躍するクリエイターのクリエイティビティを大きく飛躍させることにつながると思います。

「心身の健康は、生産性や創造性の向上と直結し、社会の発展に大きく寄与します」という一文は、あまりにも「優等生」すぎ、勢い余って管理社会的な匂いすらすると批判する方もいるでしょう。でも照れくさいかもしれないけれど、これはその通りですよ。

無頼派を標榜されているとおぼしき山本耀司氏が、母校のこうした取り組みに嫌悪感を示されることは想像にかたくありません。でもね、もう2018年なんです。僭越ながら、時代の最先端を切り開く芸術家の方々にはぜひ時代の最先端の教養を身につけていただきたいと思います。もとより、優れた芸術は、豊かで幅広く、深い教養なしには生まれないものなんですから。

無頼派を気取るといえば、こちらもお読みいただけたら幸いです。
qianchong.hatenablog.com