インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

芸術を志す若い方々とタバコの親和性

昨年「健康増進法」の一部が改正されたことにより、多数の人々が利用する学校施設でも受動喫煙防止のための措置を講じることが義務づけられました。原則としては「敷地(キャンパス)内禁煙」なのですが、屋外で、受動喫煙を防止するための対策が取られている場合に限って喫煙所を設置できるとされています。

「学校における受動喫煙対策について」
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2019/04/16/1414429_1.pdf

私が奉職している学校でも、これに従って7月からキャンパス内にあったいくつかの喫煙所が一つに統合され、生徒はもちろん教職員にも周知徹底が行われました。この措置について、一部の学校ではキャンパス内を全面禁煙にしたことでかえって学校周辺での野放図な喫煙が増えたというケースもあるらしく、そのマイナス面も指摘されていますが、私はこれまで職場でたびたび受動喫煙に悩まされてきましたから、この方針は基本的に歓迎したいと思っています。

同時に、喫煙者には「自己責任」などと冷たいことを言わず、できるだけタバコから遠ざかることができるよう医療面・心理面などからの応援やケアも必要だと思います(タバコは一種の依存症で、自力で抜け出すのにはかなりの困難が伴います)。タバコの害がここまでハッキリとしてきた現代においては、社会全体で脱タバコを支援していくべきですよね。というわけで私は、そのための医療補助やインフラ整備、教育や事業転換のための補助など様々な施策に税金を投入するの、賛成です。各種選挙でも政党や候補者の政策で注視するポイントのひとつはそこです。

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https://www.irasutoya.com/2016/12/blog-post_14.html

ところで先日、学校の会議で、この七月からの措置に伴う他の学校の現状や取り組みなどを聞く機会がありました。学校によっては喫煙者が非常に少なくスムーズに対応できたところもあれば、上述のように周辺環境がかえって悪化したというところもあるようです。そこで驚いたのは、何とウチの学校の生徒、特に男子生徒の喫煙率は約五割もあって、これは大学生全体の平均を大幅に上回っているという報告です。その理由としては、ウチの学校は芸術系の学部や学科が多く、それが背景にあるのではないかとのことでした。

そう、芸術やアートと喫煙はなぜか親和性があるんですね。私がかつて学んだのも芸術系の大学でしたが、当時は約三十人ほどいた同じ学科のクラスメートのうち、たぶん七割から八割くらいはタバコを吸っていたと記憶しています。今よりももっとタバコに対する意識が低い時代だったということもあるでしょう。私はタバコを吸っていませんでしたが、今から思えばかなりの受動喫煙に遭っていたと思いますけど、私自身の意識も低くてそれをあまり問題視していませんでした。

しかし、よく考えてみれば芸術とタバコの親和性なんて何の根拠もない妄想ですよね。画家とタバコ、小説家とタバコ、俳優とタバコ……なるほど、何十年も前だったら絵になったかもしれませんが、2019年の現在では逆に陳腐な発想です。それでも多くの芸術やアートを学ぶ学生の多くがそういう古いステロタイプで陳腐な型に嵌まっている、嵌まらされている。

いまだタバコから脱し切れていない先輩方が多いこともその理由の一つに挙げられるかもしれません。ウチの学校の卒業生には有名なファッションデザイナーである山本耀司氏がいるのですが、この方は「若者の喫煙に関して物申したい」として「近年若年層の喫煙率が低下していることを受け、愛煙家の山本が喫煙具の販売に思い至った」と雑誌の記事で取り上げられるほどの方です。

qianchong.hatenablog.com
www.fashion-press.net

芸術というものは、鋭く繊細な感性で最先端の現在と未来を切り取り表現するものだと思います。だから人一倍、世界の新しい動向に敏感でなきゃいけない。その芸術に携わろうという人間が、旧態依然としたステロタイプなスタイルに染まっていてどーするんですかと私は思います。タバコの害についてさらなる啓蒙が必要ですけど、タバコ中毒から脱しきれないがゆえに後進を惑わせるこうした「悪い大人」のみなさんも、もっと勉強していただきたいですね。

時代の最先端を切り開く芸術家の方々と、その芸術家を志す若い方々には、ぜひ時代の最先端の教養を身につけていただきたいと思います。もとより優れた芸術は、豊かで幅広く、深い教養を育むことなしには生まれないものなんですから。