インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

タバコは、農業だ。

職場の図書館で、お若い方向けのファッション雑誌をパラパラとめくっていたら,こんな広告がありました。「タバコは、農業だ。」ーーこんなに罪深い広告があるでしょうか。

同キャンペーンを紹介したJAcom(農業協同組合新聞)のウェブサイトにはこうあります。

「太陽と大地の恵みだけがもたらす風味を余すことなく届けたい、自分たちが考える最高のたばこを作りたい。」という思いから辿り着いた答えは、土から考えて葉たばこを栽培するということ。同社は、「タバコは、農業だ。」をメッセージを通じて、創業以来貫いてきた「大自然への敬意」を見つめなおし、タバコ葉が農作物であることを再発見。「こだわりぬいた100%無添加のタバコ葉を、じっくりと味わって欲しい」という、創業当時から変わらない想いを伝える。
また、常設喫煙所「&SMOKE」では、このメッセージを受けて、「太陽と大地の恵み」であるアメスピが育くまれる環境や、自然と人の暮らしが共存する里山をコンセプトに空間を演出。「タバコ葉は大地の恵み、農作物である」ことを再発見しながら、自然とつながる豊かな時間を提供する。

確かにタバコ葉栽培は農業です。土作りにこだわっているのも本当でしょう。「100%無添加」というのが具体的に何を指すのかはわかりませんが、たぶん無農薬とか、化学肥料を使っていませんとか、そういうことなのでしょう。そこまでは分かります。

でも「たばこの煙は、周りの人の健康に悪影響を及ぼします。健康増進法で禁じられている場所では喫煙できません」とパッケージの半分以上のスペースを使って大書されている製品を、このようなイメージにまぶして宣伝しようとするーーそれもお若い人たちに向けてーーその心性に強い嫌悪を催します。

いまだに「タバコの害について科学的根拠はない」という説をぶつ御仁を往々にして見かけますが、すでにこの件に関しては決着がついています。

www.mhlw.go.jp

2022年の現在にあっては、喫煙に害があることを前提にした上で、どのように既存の喫煙者を中毒から救うか、タバコ葉農家の作付け作物転換を図るかに課題は移っています。私はこうした取り組みに税金が使われることを諒とする者です。タバコ問題は自己責任論に矮小化せず、社会全体で取り組むべき課題だと考えるからです。

特に未成年者の喫煙問題については、上掲の厚労省資料でも「喫煙開始年齢が若いと,その後の人生において喫煙本数が多くなり,ニコチン依存度がより重篤で,禁煙が成功しづらく,喫煙年数や生涯喫煙量が多くなり,その結果,死亡や疾病発生リスクが増加することが,国内外の疫学研究で一致して示されていた」とされています。

なおかつ、「科学的証拠は,喫煙開始年齢が若いことと,全死因死亡,がん死亡,循環器疾患死亡,がん罹患のリスク増加との因果関係を推定するのに十分である(レベル 1)」と判定されています。そして「未成年者への禁煙支援には社会的なサポート体制が重要であることが示唆されている」とも。

くだんの雑誌の想定読者層はおそらく20代から30代だと思われますが、記事の内容を読む限り、10代の未成年もターゲットにしているであろうことは容易に想像できます。その雑誌にしてこのタバコの広告。諸外国の状況はよく分かりませんが*1、ここまで直截なタバコ広告を雑誌に載せることができる国は、いま現在、どれくらいあるのでしょうか。

この雑誌を読まれる、特にお若い方々に、くれぐれも唆されないようにと伝えたいです。

*1:ネットで検索したら、20年近く前の資料があり、その当時ですら雑誌広告は多くの国で「全面禁止」になっていました。