インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

「テキトー」に海へ行く

通勤ラッシュ時に、大勢の通勤客が向かう都心方向ではなく、逆方向の空いた電車に乗ってどこかへ行ってみたい衝動に駆られることがあります。そのむかし東京で、今から思えばかなり「ブラック」な出版社に勤めていたころたまたま読んだ『宮本から君へ』というマンガがありました。その作品に、朝の出勤時に会社とは違う方向の電車に乗って海を見に行くというエピソードがあって、当時会社の仕事に相当倦んでいた私はひどく憧れたことを覚えています。

いまの仕事には特に大きな不満はないのですが、毎週決まった時間に定期的な授業のコマを持たなければならない教員という仕事の性質上、有給休暇を完全に消化するのはかなり難しいです。ところが昨日は久しぶりに有休を取ることができたので、そうだ、アレをやってみようと思って、通勤時間で混雑する都心のターミナル駅から、都心とは逆方向の電車に乗ってノープランで「テキトー」に海を目指してみました。

途中で何度か電車を乗り継ぎ、終着駅からはバスに乗って、とある岬の先端にある漁港までやってきました。予想はしていましたけど、海からの風がかなり冷たいです。夏はおそらく行楽客で賑わうんでしょうけど、年末も近くて寒いこの時期、商店街はかなり閑散としていました。せっかく漁港に来たんだから海鮮丼みたいなのを食べたいなと思って、これまた「テキトー」に良さそうなお店をスマートフォンで探しました。

お店の外観は「もしかして休業日?」と思ったくらいひっそりしていましたが、引き戸を開けると中は食事客で満員でした。お店の方が「お名前を書いてお待ちください」と入り口脇にある紙を指さしました。入るときには気づかなかったのですが、十組以上の名前が書かれてあって、お店のお向かいには「待合室」みたいなものもありました。地元ではけっこう人気のお店だったようです。

けっきょく小一時間ほど鄙びた街並みを散策しながら待って、ようやく入ることができました。ここの漁港はマグロが揚がることで有名なのですが、私はマグロにそれほどときめかない人間なので「地魚の刺身定食」を注文しました。その日の地魚の刺身が八種類ほど盛りつけられていて、それぞれに食感がちがっておもしろかったです。でもまあお味は……ごめんなさい、こんなものかしら。

そろそろ帰ろうと思って路地裏を歩いていたら、とてもレトロな雰囲気の喫茶店があったので、ちょうど身体も冷え切っていたことでもあるしと入ってコーヒーを飲みました。他にお客さんは誰もおらず、ゆっくりすることができました。かんじんのコーヒーはあんまりおいしくなかったけれど……(またまたごめんなさい)。

でもまあ、そもそもが思いつきで「テキトー」に海までやってきたのです。せっかく休みを取って、わざわざ遠くまで来たんだから、そのぶん楽しまなきゃ、モトを取らなきゃ……みたいなマインドではない、こういうトホホな休日の過ごし方もいいなと思いました。実際、ここ数週間は心身ともに疲れ切っていたのですが、帰る頃にはとても調子がよくなっていました。

帰る途中に横浜駅で乗り換えたので、崎陽軒シウマイ弁当を買って帰りました。横浜で売ってるシウマイ弁当は東京のとはちがって紙紐でくくってあるのがいいんですよね。で、夕飯にそのシウマイ弁当を食べました。これがきょう一番おいしかったです(最後までごめんなさい)。