インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

スマホで「マルチタスク的」な録音をしたい

学校での「対面授業」復活が予想していたよりも遅くなりそうだということになり、オンライン授業で本格的に通訳訓練をする必要に迫られて、はたと気づいたことがありました。最初は、要するに対面授業でやっていた「音声を聞かせる→生徒に訳してもらう→フィードバック」をZoomなどのウェブ会議システムで再現すればいいんだよね、音声も映像もインタラクティブな環境がある以上、基本的には大差ないよね、などと高をくくっていました。

ところが本格的な実施に先立って同僚や教務のスタッフなどといろいろ試してみたところ、ことはそう簡単ではないことが分かってきました。まずはウェブ会議システムそのものの不安定性。Zoomなどで会議に参加された方はお分かりだと思いますが、参加している全員が映像と音声を「オン」にしていると、通信環境にかなり負担がかかります。そこで通常はホストが全員の音声を基本的に「ミュート」にしておき、発言するときだけ「オン」にする、などということが行われています。

基本的にはこれで「音声を聞かせる→生徒に訳してもらう→フィードバック」が可能です。音声を聞かせ、誰かを指名してその人だけミュートを外し、訳してもらう。……なのですが、参加者のネット環境がまちまちなためか、そうスッキリとは行かないことが多かったのです。音が途切れたり、遅れたり、歪んだり、雑音が混じったり。特に通訳作業は、まず最初のインプット、つまり発話者の声を十全に聴き取ることに全神経を傾けていますから、そこでこういう音声面のトラブルが少なからず起きると、なかなかスムーズに進みません。

こういうのは大容量の5G環境になれば笑い飛ばせるような昔話になるのかもしれませんが、2020年現在のニッポンでは、5Gどころか4Gさえもまっとうに整っていないような状態。加えて生徒さんの通信環境もまちまちで、自宅に光回線を引いている方もいれば、Pocket WiFiの方もいる。留学生の中にはスマホしか持ってませんという人もいる。下手に「ハイスペック」なことをやろうとすると、必ずついていけない人が出てきます。その方の実力でついていけないならまだしも、通信環境の格差でじゅうぶんな訓練が提供できないのはこちらとしても心苦しいです。

こういうところに学校からぜひ支援をしてほしいんですけど、ウチの学校は「いや、国から給付金が出るから」と対応が遅いですし、その国はといえば昨日もブログで書いたように「いずれ母国に帰る留学生が多い中、日本に将来貢献するような有為な人材に限る要件を定め」るなどと言い出す始末。

qianchong.hatenablog.com

とはいえ文句ばかり言ってもいられないので、ちょっと「スペック」を落として(?)、通訳用の教材に、訳出用のポーズ(無音部分)を入れてmp3の音声ファイルを編集し直し(これはAudacityなどでごく簡単にできます)、それをLMSやメールで送って学生に訳出を各自で吹き込んでもらい、送り返してもらってこちらで聞き、さらにフィードバックを返す(あるいは「総評」的なものを出す)というやり方にしました。他にもメモを取りながら聞いて訳出とか、いろいろ訓練したいことはあるのですが、とりあえずできるところから始めようと。

ところが、ここでまた壁にぶつかりました。スマホしか持ってない学生はどうやって録音すればいいのでしょう。

スマホで「マルチタスク的」な録音ができるアプリ

私は当初、例えばiPhoneならデフォルトでついている「ボイスメモ」を使って録音して送ればいいと思っていました。誰でも日常的にやっていることです。ところがiPhoneの「ボイスメモ」は、他のアプリが動いている時は止まっちゃうんですね。マルチタスクではないんです。教材のmp3ファイルを再生しながら「ボイスメモ」で録音ということができない。スマホの他にパソコンなど持っている学生は、パソコンからmp3を再生しておき、スマホの「ボイスメモ」で録音するだけですから簡単なのですが。

それでいろいろ調べたら、AppStoreで公開されているアプリの中にはこうしたマルチタスク(というか多重音声とでもいうべき?)が可能なものがあるらしい、ということが分かりました。いまのところ私が使ってみて大丈夫だったのは、これ。無料版はほぼ録音しかできませんけど、それでも十分です。

高音質録音 - ボイスレコーダー&ボイスメモ

高音質録音 - ボイスレコーダー&ボイスメモ

  • OneStep Inc.
  • ユーティリティ
  • 無料
apps.apple.com

教材のmp3音声を流しながら、その音声とポーズの間に訳す自分の声が両方とも録音され、保存されます。いや、このアプリにたどり着くまで、合計10個近くのアプリを試しちゃいました。協力してくれた同僚によると、Androidではこれで同じことが実現できるようです。

play.google.com

またAndroidでは、例えばSamsungの一部機種ではマルチタスクが最初から備わっていて、デフォルトの「ボイスメモ」的なアプリでも多重録音ができるようです(未確認)。ともあれ、これでなんとか訓練のお膳立てが整いました。学生にはまず資料を送って背景知識を予習しておいてもらい、なおかつ各自グロッサリーを作成して提出してもらっています。このあと、ポーズを入れた通訳用の音声を配布する予定。さてこのオンライン授業、上手く行くでしょうか。

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https://www.irasutoya.com/2015/08/blog-post_40.html

追記

Facebook「オンライン授業のコツ・知恵・経験談の共有(よりよいオンライン授業を目指して)」グループで、同じような取り組みをされている方からもっとシンプルな方法を教えていただきました。iPhoneiPadiPod touch では、画面の録画と音声の録音ができるのだそうです。つまり配布された教材音声を再生しながら、学生の声も含めてまるごと録画してしまえると。これなら訳出している時の表情まで把握できますよね。こんな機能があるなんて知りませんでした。素晴らしい〜! ありがとうございます。

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