インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

ケンジとシロさん

元日はどこにも行かず、一日中家にこもっていました。外へ出たのは郵便ポストに入っている年賀状を取りに行ったときだけ。でも年賀状はここ数年出すのをやめてしまっているので、届く枚数も年々減り続け、ついに今年は数枚にまでなりました。毎年不義理を働いていますが、もう虚礼は一切廃することにしたのです。そんな没義道な私に年賀状をくださったみなさま本当にすみません。

年賀状と一緒に「プライバシー配送」として送り主の住所氏名が伏せられた薄いダンボール包装の荷物も届いていました。年末にヤフオクで落札した同人誌です。購入したのはマンガ『きのう何食べた?』の二次創作本『ケンジとシロさん』①〜③です。同人誌を買ったの、何年ぶりでしょう。定価よりはずいぶんお高い落札価格でしたけど、コミケのあの人混みの中「出撃」して走り、並び、ゲットする苦労を考えたら、その手間賃としてじゅうぶんに納得できようというものです。

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折しも元日には、昨年放映されたドラマ『きのう何食べた?』の全十話が再放送されており、このマンガを同時代的にずっと読んできた私はもう一度全話を楽しんで見ました。さらにその後放映された「お正月スペシャル」まで。このブログでも何度も書いていますけど、このマンガは、主人公の筧史朗氏と矢吹賢二氏が自分とほぼ同年代で、かつその二人が連載とともに現実の時間に合わせて年をとっていくという設定、さらにはその年代の中高年が直面する家族や仕事上の様々な問題がとてもリアルに感じられ、なおかつ買い出しや炊事の描写が自分の日常と重なるという点で、とても共感できるのです。

それでマンガは新刊が出るたびに買って読んできましたし、ドラマも全話見たわけですが、こうなったら二次創作も読もうと思ってヤフオクで手に入れた次第。しかもこの二次創作、原作者であるよしながふみ氏自らが描いているというのが素晴らしい。そうそう、よしながふみ氏はもともとこうした二次創作から出発してBL(ボーイズラブ)の諸作品でプロとして頭角を現し、数々の名作を世に送り出してきた作家さんなのでありました。

二次創作は、著作権の観点から見ればグレーな部分が多々ありますが、「ファンアート」という言葉もある通り、原作へのある種のリスペクトであるという側面、また著作権者が告訴して初めて罪に問われるという親告罪であること(一部を除き)などから、独自の発展を遂げてきました。そんな状況を背景に活躍してきたよしながふみ氏は、ここにきて本編と二次創作のどちらも手掛けることができる作家さんになっているわけですよね。私は最近の「この界隈」の状況にはあまり詳しくないですが、これは稀なケースなのではないでしょうか。

原作の『きのう何食べた?』にはゲイである二人の暮らしが描かれているものの、性的な要素はほとんど、というか一切出てきません。当然ですけど、いわば優等生的な作りです。そのぶん(?)二次創作の『ケンジとシロさん』はエロ全開です。それでも原作の前日譚であったり、後日談であったり、原作と巧みにつながる作りになっていて、さすが原作者の手掛ける二次創作。内容の詳細はネタバレになるので控えますが、基本エロだけれども、笑いの要素もあるし、なにより原作者がノリノリで原作の「優等生感」をぶち壊しにかかっているところに清々しささえ覚えました。