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しまじまの旅 たびたびの旅 58 ……綠島の若者文化と監獄文化

綠島は、観光用の島内一周バスを除くと、バスやタクシーの類が一切ないので、バイク(スクーター)が必須です。私も電動スクーターを借りました。電動は馬祖でも乗ったことがありますが、電池の交換が頻繁で不便なので普通のガソリンで動くバイクを借りたかったんですけど、外国人は電動のみという暗黙のルールがあるようでした。

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というわけで、綠島唯一の繁華街、南寮のメインストリートはバイクで溢れかえっています。しかも圧倒的に若い方が多い。お店もどちらかというと若者向けのテイストで、例えて言えば原宿の竹下通りや台北の西門町的なポップで雑然とした雰囲気(の超ローカル版?)が感じられます。

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それから、バイクに乗っている時にヘルメットをかぶらない人の率がけっこう高いです。写真ではけっこうかぶっているように見えますけど、島内を一周してみて、だいたい六割くらいの人がかぶっていないようにお見受けしました。あと、上半身裸(+タトゥー)の若い兄ちゃん率もかなり高い。暑いですし、マリンスポーツが盛んな場所ですからね。

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そう、ここ綠島は端的に言って、若い方や家族連れがシュノーケリングやダイビングや釣りなどのマリンスポーツを手軽に、そして比較的安価に楽しめる場所という位置づけのようです。朝の時間など、お揃いの救命胴衣をつけた大勢の観光客が大挙してスクーターで移動していたりして、ちょっと壮観です。

その意味では静かにゆっくりとリゾート気分を味わう南の島という雰囲気はほとんどなくて、そのぶん「田舎」の雰囲気満載。澎湖よりも馬祖よりも、さらに台湾の田舎の街らしい雑多な感じにあふれています。

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かつて「監獄島」とも称された綠島には、いまも一部の刑務所施設が現役で稼働しています。民宿のおやじさんによると、こちらの刑務所には「重犯」の受刑者が収容されているとのこと。すぐそばにあるポップな繁華街とのコントラストがすごいですね。

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入口前まで行ってみると、観光客が記念写真を撮っていました。何というか、この壁の絵もそうですけど、刑務所というものに対する感覚がちょっと興味深いです。いや、日本の刑務所だって壁に絵が描かれているところはありますけど。

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入口前の日陰にいた「アンタ、何しにきたの」という顔の猫さん。

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この刑務所からほど近いところに「綠島人権文化園区」があります。かつて政治犯や思想犯を収監、あるいは教化するために使われていた「綠洲山莊」と、犠牲になった人たちを記念する公園からなっています。しかし監獄の名前が「山荘」ってのもすごいですね。

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逆光で見えにくいですが、奥の大きな崖に「滅共復國(共産党を滅ぼして国を取り戻そう)」と書かれています。

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分厚い鉄の扉。

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接見用のブースもありました。

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もともと憲兵などの宿舎だった建物で、白色テロの犠牲になった医療関係者に関する特別展が開催されていました。

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綠洲山莊のお向かいにある人権記念公園。暑いのでほとんど人がいません。

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自身も政治犯として収容されていたことがある作家・柏楊氏の碑文がありました。「在那個時代,有多少母親,為她們被囚禁在這個島上的孩子,長夜哭泣」。あの時代、どれだけの母親が(彼女たちのために)この島に囚われた子供を思って長い夜を泣き明かしただろうか。

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この碑文にある「為她們」にぐっときました。直訳すれば「彼女(母親)たちのために」ですけれど、この「她們」にはもっと広くて深い意味が込められていると思います。いわば、自由を求める全ての人々のために、この国の未来のためにというニュアンスを感じるのです。

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地下に掘り下げられたスペースには、かつてここに収容された人たちを始め、政治犯や思想犯として迫害や弾圧を受けた人々の名前が刻まれています。ものすごい数です。

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獄死した人、銃殺刑に処された人……。

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綠洲山莊に収容されていた人々の名前の中に、施明徳氏の名前もありました。やはり李昂氏の小説「鴛鴦春膳」の牛肉麺のくだりに出てくる描写は、ここでのことだったんですね。

あまりに暑いので探しませんでしたが、2000年に陳水扁氏と組んで副総統に当選した呂秀蓮氏や、高雄市長だった陳菊氏の名前もあるそうです。いずれも民進党の重鎮級政治家。現在台湾の与党は民進党ですが、この政権が生まれるまでに、また台湾がアジアで他に先駆けて民主的な政策を進めつつあるという今の状況に到るまでに、費やされた犠牲の多さに粛然とした気持ちになります。

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最後の、一番新しい年代のところに「前田光枝」という名前を見つけました。日本人ですよね。調べてみたらこの方、台湾独立運動などに関わり一時は日本に亡命していたこともある史明氏と、台湾共産党史などの研究で知られる盧修一氏との連絡役(何でもお茶の葉を入れる缶に史明氏からの「指令」を潜ませて盧修一氏に渡したとか)として摘発され、国外追放となったそうです。

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緑島がこうした歴史的背景を持っているということで、「竹下通り」的なメインストリートには監獄を模したようなお店がいくつかありました。民宿のおやじさんは「監獄文化」と呼んでいました。ちゃっかり観光資源にしちゃってます。

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こちらは「冰獄」という名前のかき氷屋さん。牢屋に入ってかき氷を食べるというコンセプト(?)。ちょっと不謹慎な気もしますけど、こういう悪趣味テイストのノリって台湾には好きな方も多いですよね。あの「KUSO」的な悪ノリ文化というか。

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こちらのお店をはじめ、緑島のかき氷は海草(岩海苔みたいなの)が入っているのが特徴だそうです。「監獄冰」の「ALL(全部乗せ)」を頼んでみました。大と小がありますが、「小」でもこのボリュームなので、二人でシェアした方がよいかもしれません。

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