インタプリタかなくぎ流

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江勢(えせ)物語

  id:suikanさんから再三オススメがありながら、品切れらしく本屋の店頭では手に入らなかったこの本。アマゾンのマーケットプレイスで、書籍の値段とは思えないほどの安価で購入。送料の方が高いよ。
  『伊勢物語』をはじめとする日本の古典をごちゃ混ぜにして現代語訳した表題作をはじめ、英訳本『雪国』からの珍妙な逆輸入訳「スノーカントリー」、誠実なようでいて実はとんでもなく傲慢な翻訳者の書いた「訳者あとがき」など、翻訳を含む言葉の転換を題材にした短編集。
  翻訳をテーマにした、かなり個性的でスパイスのきいた本として読むのも楽しいけれど、本の後半に収められたインド紀行がことのほかすばらしかった。

チョロイ客だと思われ、カモられていればいいじゃないか。カモることで生きている人間がいっぱいいて、その人たちの生活がかかっているんだから。(中略)
日本にいる時は百円の缶コーヒーを平気で飲む人間が、インドへ行くとつい五ルピーのチップを出し惜しみし、値切れば値切っただけ有能な旅行者であるように思うのはまことに不思議なくらいのことである。

  私も中国で常にそう感じていた。現地の人にさえ「バカかお前は」と言われたけれど、値切るのが下手というか苦手なのだ、私は。十元値切っても百五十円くらいのことじゃないか、と思ってしまうのは贅沢で、かつある意味傲慢なのかもしれないが。
  最初はインドに戸惑い、次第に好きになり、ついにインドが分かって愛着まで感じた後、じわじわと「うんざりするような気分」が生まれたという清水氏。かつて住んだ中国で、同じような気分を味わった私としては、諸手を挙げて共感(とは言わないか、賛成)。「大好きだけど大嫌い」という気持ちになるのだ、なぜか。