インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

キタ―(゜Д゜;)―ッ。

会議の通訳をしていて、何が一番緊張するといって(まあこれに限らずいつも緊張しているんだけど)ことわざや慣用句ほど緊張するものはない。私は漢籍の素養などないに等しい無粋者だから、“中國有一句俗話説……(中国*1のことわざにいわく……)”などという発言が始まるや「キタキタ〜!」と心臓の鼓動が早くなる。
現場でちょっとした工事上のトラブルがあって、台湾側に謝罪と状況説明をする羽目になった日本側。「ここのところトラブル多発で……」と落ち込む日本側を、台湾側の責任者が慰める。

中國有句俗話説:“吃一塹,長一智。”

キタキタ〜!「しくじれば、それだけ賢くなる」ということで、「失敗は成功のもと」と訳してもいいが、トラブルで落ち込んでいる日本側に対しては何だかイヤミな感じがする。そこでとっさに説明調にした。

中国には「トラブルを糧として、さらに成長する」といったような意味のことわざがあります。

これを聞いた日本側の責任者、「すでにお腹いっぱいです」。
台湾側は爆笑していた。これで会議の雰囲気がぐっと和らぎ、とても前向きにトラブル対策を話し合うことができた。
“吃”からの連想で「糧」と訳したのがラッキーだった。笑ってもらえてよかった。

*1:台湾でも多くの人が「中国の文化では……」「我々中国人は……」という言い方をする。