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インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

いったいどうしろと?

  派遣仕事の休憩中に、翻訳会社から携帯に電話。「大至急、メールの添付ファイルを見てほしいんですけど」。
  たまたまホットスポットようやく覚えた)にいたので、パソコンでメールを開いてみると、中国語の原文、翻訳者の訳文、クライアントの修正指示の三つが入っていた。
  どうやらとある翻訳者が訳した文章をクライアントに納品したところ、「誤訳じゃないか」と突き返されてきたらしい。それをチェックしてほしいというのだ。チェックったって、こんな出先じゃ無理だと思ったが、とりあえず指定した二段落ほどでいいという。
  拝見。

  確かにこりゃひどい。中文の理解は基本的に間違っていないけれど、極端な直訳調で、係り受けもあやしい悪文だ。どうして翻訳者はこんな訳文を納品したのか。それに翻訳会社もなぜこれをそのままクライアントに納品するのか。中国語は分からなくても日本語の善し悪しは吟味できるだろうに。
  きっとまたメールを使って原文を中国大陸に送り、現地の日本語を学んでいる学生に安価で訳させたのだろうと思ってたずねるに、なんと翻訳者は日本在住の日本人らしい。
  クライアントは、納品された訳文があまりにも読みにくいので、社内の中国人社員に原文と付き合わせて校正させたそうだ。ところがこの中国人も日本語はあまり堪能ではなかったらしく、かなりとんちんかんな校正が入っている。結果、どう手を入れても立て直しようがないほどの奇妙奇天烈な訳文になってしまった。
  「日本人翻訳者の原文理解は基本的に間違ってません。でも訳文としては最低です。一方中国人の校正は一対一対応の極端な直訳傾向で、悪文にさらに拍車がかかってます」と正直に、しかし身も蓋もない返答をしたら、翻訳会社の社員は電話口で絶句していた。
私も仕事に戻りたかったので、解決策を提示。
  「別の翻訳者に再翻訳させてはいかがですか」
  「予算的に……」
  「じゃあ別の翻訳者に原文を読みながらリライトしてもらう」
  「それも予算的に……」
  「明らかな誤訳や、係り受けがねじれているところだけ直す」
  「うーん、それも手間が……」
  「困りましたね……」
  「……」
  長い沈黙の後、翻訳会社の若手社員くんは意を決したようにこう言った。
  「銭衝さんのおっしゃるように、読みにくいけど訳文としては基本的に間違ってません、御社の(中国人の)校正は逐語訳過ぎて必ずしも正しいとは言えません、と回答します」
  ……大胆な人だな。私の名前は出さないでよ。