インタプリタかなくぎ流

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記憶力を強くする―最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方

記憶力を強くする―最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方
  昔から人の顔と名前が一致しない、というか人の名前をなかなか覚えられない。これは断じて年のせいではなく、昔からそうだったのだが……って、声高に強調するようなことでは全然ないのだけれど、とにかくあまり記憶力のよい方ではない、と自分では思う。

  というわけで、ずいぶん昔には記憶力増強をうたう怪しげな教室に通ったこともあるし、これまでにもいろいろと記憶力に関する本や脳科学に関する本を読んできたが、こんなにおもしろく、しかもまっとうで読みやすい本は初めて。
  著者の池谷裕二氏は、この本を書いた当時まだ三十歳だったそうだ。記憶力のあれこれを語るのに、受験勉強をたびたび引き合いに出しているところなど、学生生活からまだそれほど距離の離れていない雰囲気が伝わってきて楽しい。
  とはいえこの池谷氏、その後も海馬に関する最先端の研究のかたわら脳科学に関するいろいろな本を書いていて、かなり有名な方なんだそう。恥ずかしながらこれまで著書を読んだことがなかった。さっそく近所の本屋で糸井重里氏との対談『海馬―脳は疲れない』を見つけて、これも買い込んできた。
  勉強量を横軸に、勉強の成果を縦軸にとると、勉強量に比例して成果は幾何級数的なカーブを描いて上昇していくという話*1も、脳の構造や記憶のメカニズムなどの詳細な紹介の後に語られると、どえらい説得力がある。
  また一度記憶したことは、その日の夢の中で反芻されることによって定着がより進むという話は、なるほどそういうことだったのかと驚いた。いや、昔から単語や文章を暗記するときに、覚えたその日よりも次の日や二〜三日たった後のほうがより落ち着いた記憶になっていて、カレーやシチューは作り置いた二日目のほうがおいしいのと同じだな、などとこじつけた理解をしていたのだが、これにもきちんとした裏付けがあったわけだ。
  脳の神経細胞が、どのようにして情報(活動電位)を伝達しているのかという話も、その複雑で精緻なメカニズムにただただ仰天するばかり。日常レベルのやさしい話題から、最先端の脳科学まで縦横無尽に解き明かして興味のつきない本。

*1:つまり勉強をスタートしたばかりのときは遅々とした歩みだが、続ければ続けるほど上達の加速度がついていくということ。