インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

武井壮氏と北の富士勝昭氏のコントラスト

昨日大相撲の秋場所が千秋楽を迎えました。私自身は相撲にあまり興味はないのですが、細君が大ファンで、休日の夕刻はたいがいテレビにかじりついています。私も夕飯の支度をしながら中継の音だけ聴いているのですが、いつも気になって仕方がないのが解説をされている北の富士勝昭氏です。

音だけ聴いているからよけいに際立つのかもしれませんが、よくよく聴いてみるとほとんど内容がないのです。他愛ない印象や感覚的なことをフィーリングに任せて口にしているだけ、といった場面が多すぎるように思います。解説者であれば、もっとプロの視点から技術的なことや戦術的なことや、素人が理解しにくい事柄をわかりやすく説明すべきだと思うんですけど、北の富士氏が語っている内容は、それこそオジサンたちの居酒屋談義の域をほとんど出ていません。

同じ解説者で、よく一緒に登場する舞の海秀平氏のコメントには中身があるなあと思うことが多いです。また舞の海氏は、時にはアナウンサーにプライドを傷つけない言い回しでやんわりと「ダメ出し」していたりして、なかなか聴き応えがあります。これは素人の邪推ですが、舞の海氏も内心「北の富士氏には困ったなあ。もう少し『解説』してほしいなあ」と思ってらっしゃるんじゃないでしょうか。

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https://www.irasutoya.com/2014/01/blog-post_4710.html

そんな「コントラスト」がとてもよく表れていたのが、去る5月18日、元陸上選手でタレントの武井壮氏がゲストとして招かれていた大相撲五月夏場所の7日目でした。YouTubeを検索したら、ちょうどその音声が入っている動画がありました。0:41あたりからをお聴きいただきたいと思います。

youtu.be

アナウンサー:武井さん、この鶴竜という横綱のことは、どんなふうに見ていますか。


武井壮氏:うーん、まあ、あの、モンゴルのね、出身の力士の方は、やっぱり日本の相撲の技術とはまた違う、全く違うその、相手を起こしたりとか、相手を崩したりする技術を持ってらっしゃるんで、それはもう朝青龍関もそうでしたけれども、本当にこう、相撲に新しい何か型を持ち込んでくれたような、そういうのがモンゴル力士の特徴だと思うんですけれども、その中でも白鵬関と僕は胸を貸していただいたことがあるんですけれども……


アナウンサー:白鵬関にもあるんですか?


武井壮氏:はい。あの、体力だけではなくて、ほんとにあの、まわしを持つ場所が、ほんとに指一本分違うだけで、押し出せたり出せなかったりすることがあるんだよってことを教えて頂きましたし、ほんとにまわしを切るにしても、ほんとにあの、切り方が、ほんとに腕の位置が、ほんとにもう一センチ違うだけで切れないことがあるんだよとか、そういったあの体力とかそういった相撲の力以上の細かい物理的な検証みたいなものもされている方で、そういったものも脈々と受け継いでいらっしゃる方がモンゴルの力士の方々だと思うので、そういう意味でこう、その相撲の力と、科学的なそういった力と、そういったことが融合された、あの横綱が多いので、非常に技術的にも高くて、アスリートとしても能力の高い人が多いなと思います。


アナウンサー:そうですか。またすごい経験談と、それから見方をいまうかがったような感じです。


武井壮氏:だから歴史のある相撲と、やっぱり最先端の科学みたいなものを、こう融合させている姿ってのは、僕らもほんとに非常に勉強になりますね。

「あの」や「ほんと」という冗語が多いのはご愛嬌ですけど、アスリートという専門の立場から、ご自分の考えや経験から学んだことを視聴者にフィードバックされていますよね。これこそ解説じゃないかと思うのです。この武井壮氏の発言と、そのあとに水を向けられた北の富士氏の「解説」は、非常に鮮やかな(?)コントラストを成しています。

アナウンサー:まあ北の富士さん、確かにこの鶴竜は、非常にやっぱり上手さのある横綱だとは思いますけれども、そういった技術面ですね。


北の富士勝昭氏:そうですね。組んでよし、跳ねてよしですよね。あの、穴のない力士だと思うんですけどね。そしてまたタイプも、性格的なものもね、白鵬でもない、朝青龍でもない、日馬富士でもないね、うん、どっちかというと、まあ性格としては非常に温厚なタイプで、穏やかですよね。非常に穏やか。

ここだけ取り出して「解説」の質をうんぬんするのも公平ではないかもしれません。でも同じ鶴竜という力士について聞かれたその答えがここまで違うとは(放送時間の制限もあるのでしょうけれど)。

ここ数年、細君につきあって私が聴いてきた中では、北の富士氏はほとんどこうした印象論の域を出ない、あるいはフィーリングでしゃべる「解説」しかなさっていないように思えます。もう少し中身のある、プロの視点からの解説が聴きたいなといつも思いながら夕飯の支度をしています。