インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

能楽堂の「めくり」

今年は発表会を国立能楽堂で行っておりまして、出番がない時間(……がほとんどです)は見所(客席)へ見に行ったり、楽屋で謡をさらったりしています。そのほかに、コロナ対策ということで楽屋へ入る方々の体温チェックなどをする受付に座ったり、見所の端で「めくり」を担当したりしています。

めくりというのは、落語の寄席などですでにみなさまご案内の通り、いま何の演目かを客席にお知らせする紙製の札です。落語の場合は出演者名が書かれていますが、能楽の場合は番組名(演目)が書かれています。

めくりはあらかじめ番組順に重ねて台に取り付けてありますから、担当は基本的にそれをめくるだけで簡単そうに見える作業なのですが、個人的にはけっこう緊張します。というのも、万が一演じられている番組とめくりの番組名が違っていた場合には、正しい番組名にしなければならないんじゃないかと思うからです。滅多にないですが、ごくたまに番組が前後することがありますし、その日に急遽欠番になるということもないわけではありません。

そんなときに、謡い出しを聞いてとっさに「これじゃない」とわかるかどうか。少なくとも私は心もとないです。すべての曲をお稽古したことがあるわけじゃないですし、お稽古したって忘れちゃってることがほとんどなんですから。さいわい今回の私の担当時間内に、そういったイレギュラーな事態は起こりませんでした。ともあれ、貴重な体験をさせていただきました。