インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

誰が何のために考えたのか

これは日本のどこかにある、とある事業所でのお話です。その事業所では毎年インフルエンザの予防接種が行われます。ここは規模が大きく、職員数も多いので、事業所本部の医務室が「職域接種」を行っているのです。ただしワクチンの数量は限られているので、毎回職員間での「争奪戦」になります。

昨年までは、医務室から全職員に向けて接種の申し込みを受け付ける旨の一斉メールが送られており、申し込み希望者は受付開始日時になったら申し込み用フォームを返信する形で「早い者順」で接種できる仕組みになっていました。しかし、このフォームが職員から医務室に大量に届いて処理に忙殺されるからか、今年から申し込み方法が「改善」されました。

新しい申し込み方法は、メールで一斉に通知が行われてから一週間ほど後のある一日に、医務室の前に掲示される接種日時の一覧表に、接種を希望する職員が自分の所属と名前を書いた紙を貼るというものでした。しかも新型コロナウイルス感染症に対するリスク回避の観点から、比較的人の少ない早朝の八時から受付を開始するとのこと。

つまり「メールで通知され、フォームで返信する」という方法から、「メールで通知され、そのメールに添付された申込用紙をプリントアウトし、所属と名前を手書きして、はさみでテープ状に切り取り、それを申し込み指定日の早朝八時にひとりひとりが医務室前まで持参して、糊で日程表に貼り付ける」という方法に「改善」されたわけです。

医務室からすれば、これで大量のフォームを処理する必要はなくなります。しかも職員ひとりひとりが自分の所属と名前を書いた紙を日程表のそれぞれの時間枠に貼ってくれるため、ひとりでに接種スケジュール表が完成するというわけです。おお、何という業務の効率化でしょうか。

ちょっとちょっと。

正直に申し上げて、このような申し込み方法を考案した方の感性を疑います。コロナ禍への対応ということなら昨年同様すべてメールで処理した方が安全ですし、「改善」されたあとは明らかにひとりひとりの作業量が増大しています。

インフルエンザワクチンの数量が限られているため、何らかの方法で接種希望者を絞る必要があることは理解できます。でもそれなら、フォームで申し込みを受け付け、抽選を行い、その結果をメールで知らせるだけでよいではないですか。この「改善」は、自分の部署の業務効率を改善する代わりに、その何倍もの手間暇を全事業所規模で増やす結果になっています。いや、医務室もたぶん、ひとりひとりが糊で手張りした末に完成した接種スケジュール表をもう一度Excelファイルに入力し直すなどしているんじゃないかと思います。なぜ徹頭徹尾デジタルデータの中で処理しないのでしょうか。

このように、せっかく立派なイントラネットを有していても、実際の事務作業は旧態依然たる紙資料・手書き・直接持参(ときに印鑑押捺が加わる)……というの、何とかならないものでしょうか。上に立つ者がITにあまりに疎いからこうなってしまうのでしょうか。こうした仕事の仕方は、たぶんまだこの国のあちこちに残っているのではないかと想像します。それとも、うちの職場だけなんでしょうか(あっ、言っちゃった)。

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https://www.irasutoya.com/2016/08/it.html