奉職している専門学校には台湾の留学生が大勢いて、昨年の卒業生から「センセ、今度台北に行くことがあったらぜひここに」とお勧めされていたお店がありました。それがこちら、総統府や中山堂にもほど近い「東一排骨」です。
排骨というのは、日本では「パーコー」などと表記されますが、薄くスライスされた豚の骨付き肉を甘じょっぱい味つけで揚げ焼きにしたようなものです。台湾のお弁当にはかなりの確率で登場する代表的な総菜ですが、う〜ん、あまりに「肉々しい」のは中壮年の私にはつらいかしら……などとちょっと腰が引けつつも、今回行ってきました。
お店の入口もそうですが、店内の雰囲気も何というか「グランドキャバレー」ふう(行ったことないけど)。入口すぐ脇のカウンターで、存在感半端ないおばちゃん(なぜか三人もいた)に「何にする?」と問われ「排骨飯!」と答え、あとは適当に空席を探して座るだけ。こんなに広いお店で、適当に座っても注文通りの品が運ばれてくるのは、どういう追跡システムになっているんでしょう。
統一感のない店内は、放映中のテレビあり、水槽あり、電飾あり、鉢植えあり、ガラスケースに入った多種多様な飾り物ありで、何とも落ち着かない……かと思いきや、これが不思議にすごく落ち着く〜。何でしょう、この「こっちがこれだけ自由なんだから、アンタも自由にしなさい」的な背中を押してくれる感。
「排骨飯」はご飯の上に「滷肉(ルーロー飯に載ってるやつ。でも、とてもあっさり目の味つけ)」と三種類の野菜炒め(この日はキャベツと青菜とマコモダケ)が載ってるのと、別皿で「排骨」、それに日替わりだというスープ(この日は味噌汁ふうでした)のセットです。ご飯以外にも麺(スープあり、なし)があり、他にも「雞腿飯」や「魚排飯」など数種類の選択肢がありました。
これで150元(500円くらい)なんですけど、美味しい〜。全体的に薄味で「排骨」も見た目ほど重くなくて。食べながら「ああ……この味」と、大昔に台湾のプラント建設現場で働いていた頃のことを思い出しました。
現場のお昼ご飯にたびたび登場したのが、これと全く同じようなメニューのお弁当だったのです。ご飯の上に数種類の野菜と「排骨」、そしてスープ。私は大好きでもりもり食べていたのですが、日本から出張してきていた職員たちには軒並み不評でした。いわく「ご飯の上に脂っこい料理が載って、その油がご飯に染みているのが耐えられない」。それで台湾側スタッフや私がお弁当屋さんと交渉して、ご飯とおかずを別々の箱に入れてもらうようにしていました。
食の好みは人それぞれですから、白いご飯は白いご飯のままでという気持ちも分からなくはありません。でも、このある意味とても台湾的な(中国語圏全般がそうかな?)ご飯の上におかずがドン! という、おかずの味がご飯に染みているのも美味しいんですよね。
どなたが書かれたのかは失念しましたが、もう何十年も前に、食に関するとある文章を読みました。それは中国語圏の人々が大皿からおかずをとって、それをいったん手元のご飯の上でバウンドさせてから食べるのを観察したものだったのですが、「あれは、おかずの汁が染みたご飯が美味しいからではなかろうか」と結論づけていました。諸手を挙げて賛同したいと思います。
「東一排骨」のこのセットメニューは、台湾の人たちの心に染みる一種のソウルフードなのではないか、この店をお勧めしてくれた卒業生にとっても……と思いました。私のテーブルの隣に座ったお子さん連れの三人家族は、それぞれが野菜の載ったご飯を単品で頼み、その他に「油豆腐(厚揚げ風の豆腐を煮込んだもの)」をおかずに取って、三人でつついていました。「排骨」が売りのお店であえてこの選択が渋いです。やはりご飯の上におかずがドン! が心からお好きなんでしょうね。次は絶対マネします。