この旅は主に台湾鉄道の各駅停車を使って、ゆっくりのんびり、なかば無計画に台湾を一周する心づもりでした。台湾は島全体がちょうど日本の九州ほどの大きさで、こういう旅行が比較的気軽にでき、旅行中にも「歩いて台湾一周チャレンジ中!」みたいなカードをバックパックにくくりつけた青年を見かけました。こうした台湾一周旅行は“環島(ホァンダオ)”と呼ばれます。
昨年は一青妙氏の、その名もズバリ『「環島」ぐるっと台湾一周の旅』という本も出版されていました。
こちらは自転車による「環島」ですね。ほかにも自動車やバスで旅行する方法も書かれていて、その中に旅行とは直接関係ないけれど、バスに関してこんな描写がありました。
誰にも譲りたくないぐらい好きだったのが停車のひもを引っ張ること。天井に張り巡らされたひもを引っ張ると、「ジリリリリリリン」と音が鳴り響き、「次で降ります」の合図になる。降車ボタンがまだなかった時代の懐かしい思い出だ。
おお、これ。私が台湾に住んでいたのは世紀も改まった比較的最近のことですから、バスはすべて降車ボタンだったはず。この「ひも式」の(拉繩式的下車鈴)は見たことがないはずなのですが、なぜか記憶に残っています。あれ、どうしてだろうと思ったら、テレビCMで見たのでした。五月天(メイデイ)のボーカル・阿信が、バンドのメンバー扮する女生徒に言い寄られて、思わず席を立ち降車しようとひもを引っ張る……といった設定で。
この映像、どこかにないかなと思ってYouTubeを検索してみました。検索ワードは「五月天 阿信 廣告 公交車」。果たして、そのCM映像が見つかりました。ネットってすごい。それがこちらです。
この「ひも式」降車ベルは、台湾の留学生(おおむね二十歳代)にとっても、どこか心の琴線に触れるレトロスペクティブな光景のようで、とある授業で何気なく「昔こういうのがあったそうですね」と話したら、悶えんばかりの勢いで「そう、そう、そうだった!」と懐かしがっていました。
今も台湾のローカルなバス路線などで、この「ひも式」の降車ベルは残っているのかしら。残っているなら、ぜひ一度体験してみたいです。きっと現地の子供たちと「誰にも譲りたくない」と意地の張り合いになるでしょうけど。