昨日は通訳スクールのセミナー&公開講座でした。珍しく男性が二名も参加されていました。普段はゼロか、いてもお一人のみという回が多いです。他の言語は分かりませんが、こと中国語通訳に限って言えば、圧倒的に女性が活躍している業界です。
実際に開講しているクラスでも、男性の生徒さんは本当に少ないです。ここ数期はずっと女性のみですし、かつて私が通っていた頃も、男性はいつも私一人でとっても怖……いえ、楽しかったです。
それから公開講座にしろ、実際のクラスにしろ、中国語ネイティブの割合がとても高いです。学期にもよりますが、いつもだいたい7割から8割くらいが中国語ネイティブ。私は8年ほど通訳スクールの講師を続けてきましたが、日本語ネイティブの生徒さんはどんどん減っている印象があります。
日本で稼働している日中通訳者の、中国語ネイティブ率も非常に高いです。個人的な感覚だと6割から7割くらいは中国語ネイティブじゃないかな。日本における日中通訳業界って、とても特殊なんですよね。日英通訳を考えてみればその特殊性が分かります。
日本国内で稼働している英語ネイティブ通訳者(例えばアメリカ人とかイギリス人とか)って、いると思いますか? いないことはないと思いますが、ごく少数でしょう。圧倒的多数の日本語ネイティブ日英通訳者が、日本国内での通訳業務を担っています。
ところが日中通訳だけは(韓国語もかな?)日本国内市場なのに中国語ネイティブ通訳者の数が日本語ネイティブを凌駕しているのです。じゃあ中国や台湾で日本語ネイティブ通訳者があちらを圧倒するほどたくさん活躍しているかというと、もちろんそんなことはないでしょう。報酬額や物価を考えても中国や台湾では、中国語ネイティブ通訳者が圧倒的多数であることは間違いありません。
つまり、日本語と中国語のコミュニケーションにあっては、その担い手の母語がかなり偏っているということなんですね。別に「国益」とかそんなことは持ち出したくないけど、政治でも経済でも文化芸術交流でも、圧倒的多数の中国語ネイティブがコミュニケーションの仲立ちを担っている……これはやっぱり色々とまずいんじゃないのかなと思います。
現状がこうなっている原因は、何なんでしょうね。
地理的歴史的に中国語圏と日本が近い。
通訳者や翻訳者など言語を司る職業の社会的地位が比較的低い……ので、日本人が就きたがらない反面、中国語ネイティブがどんどん参入している。
中国語ネイティブの方が語学学習に意欲的、ないしはハングリー。
色々考えられるでしょうけど、やっぱり言語を司る職業に対する低評価・無理解が根本にあるような気がします。「英語屋さん」という言葉がありますけど、日本企業では、語学専業になってしまうと出世コースからは外れたと見なされるのだとか。まあ私は出世しなくてもいいですけど、せめて「通訳なんて口先でペラペラっとやって結構いい日当稼ぐんだろ?」みたいな偏見はただしていく必要があると思います。言葉が話せれば通訳ができる……わけでは全くないのです。
そんな環境だから、日本人で通訳者や翻訳者を志す方が減って、その部分をハングリー精神旺盛な中国語ネイティブの方々が補うようになっているのではないかと。これ、他の業界でもよく見聞きする状況によく似ていませんか。
では、女性が圧倒的に多い理由は?
脳の構造からして女性の方が語学に向いているという学説もあるそうですけど、私にはよくわかりません。ただ、やはり根本にあるのはこの職業に対する低評価だと思います。
日本はまだまだ女性の社会進出が遅れています。男性が主たる家計の担い手で、女性は専業主婦ないしは非正規的な働き方をしながら家事育児……という時代遅れのパターンが根強く残っています。いっぽうで通訳者や翻訳者は、その社会的地位からしても、実力にもよるけどそうそう家計を十分に担えるほどに稼げる職業ではありません。
となれば、やはりダンナさんが企業に勤めて家計を支えるいっぽうで、女性が通訳や翻訳でパートタイム的に働くという構図になる。これがなかなか崩れないんじゃないかと。クライアントによっては通訳者を「コンパニオン」的に捉えている場合もあるんです。先輩の女性通訳者が宴会の通訳でお酌をさせられたなんて話も聞いたことがあります。通訳者や翻訳者はそれぞれがことあるごとに社会的地位の向上を訴えていかなきゃいけないですね。
あと、特に語学を目指す日本人の男性諸君は(私も含めて)……もっとガンバレよぉ、ということですか。