インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

下着ブランド名としての「Kimono」をめぐって

Twitterで「#kimono」や「#KimOhNo」というハッシュタグのついた多くの着物(和服)写真がアップロードされていました。アメリカのタレント、キム・カーダシアン氏が自らプロデュースした矯正下着のブランド名を「Kimono」としたことに対して、日本の伝統的な服装である着物のイメージがこうした形で流布されることに抗議しようと多くの方がツイートしているようです。

ことの経緯は、こちらの記事に詳しくまとめられています。

www.bbc.com

キム・カーダシアン氏ご自身のツイートはこちら(キャプチャー画面です。リンクはこの下に)。

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https://twitter.com/KimKardashian/status/1143505431391854594?s=20

なるほど、これは確かに、写真にある種の強烈な「インパクト」があることも相まって、着物を愛する方々の間で「炎上」しているのは無理からぬところがあると思います。私も日本の着物という服は本来こんなふうに着られているんだよという一つの例を発信するのもいいかなと思って、自分の舞囃子の写真をハッシュタグとともにツイートしました。

ただ私は着物の写真をツイートしたものの、日本文化の侮辱だとか冒瀆だとか、それに抗議するといったスタンスは逆に国粋主義的な香りというかファナティックな感じがして抵抗があったので、単にハッシュタグだけをつけるにとどめました。だいたい日頃から着物をそんなに大切にしているのかと問われれば、少なくとも私はそれほど胸を張れないなとも思って。それでもハッシュタグ「#KimOhNo」を使っていますから、多少なりとも抗議のニュアンスはこもるんですけど。

こうした他の文化のアイデンティティを毀損しそうな危うい名称というのは、他にもたくさんあると思います。いまぱっと思いつくところでは、かつて風俗営業店の代名詞だった「トルコ風呂」や、喜納昌吉氏の『ハイサイおじさん』に出てくる「台湾はぎ(禿)」。「日本のチベット」というのも考えてみればかなり危ういですし、中国語にも“香港脚(水虫)”というのがあります(他にもありましたら、ぜひご教示ください)。

ただこれらはいずれもネガティブな、あるいは茶化したようなイメージがつきまとうのに対して、今回はむしろおしゃれな下着としての名称に「Kimono」を使われちゃったところがややこしい。こういう「ラクダ色(……は死語かしら、肌色?)」の下着は服の上から下着の線が目立たないので私も愛用しています。でも服としての「Kimono」が下着として商標登録されちゃったらやはり心中穏やかでない……などとつらつら考えていたら、フォロワーのMariChan(陳マリ)さんがこんな興味深いツイートをされていました。

へええ。ネットで検索したらすぐに見つかりました。アメリカはカリフォルニア州にある「Mayer Laboratories」という会社が販売している製品で、オフィシャルサイトの下に「Kimono CONDOMS」のバナーが「Rマーク(®)」つきで見えます。商標登録もされちゃってるじゃないですか。製品説明には「Made with premium natural latex using state-of-the-art Japanese technology」とあります。日本の企業と技術提携(?)したアメリカ製品みたいですが、中国語のネットショップでは「日本製造(日本製)」となっているところもありました。おお……。

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http://kimono-condoms.com/kimono-microthin-condom.htm

単なる想像ですが、キム・カーダシアン氏ご自身はあんまり深く考えずに軽い「ノリ」でネーミングをしたのかもしれません。商標登録うんぬんの行方は分かりませんが、仮にされたとしても米国内でのお話。米国で着物を売ろうとするときには影響はあるかもしれませんが、はたしてどれくらいの「市場」があるのかと考えれば杞憂に過ぎないかもしれません。着物を愛するみなさんはこれからもSNSなどで「Kimono」の文字とともにご自分の着物姿など、着物のありようを示す写真をどんどんアップされるといいかもしれませんね。私もやろうと思います。