インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

紙銭

工事現場ではちょくちょく“拝拝”が行われる。これは日本でも起工式などで行われる安全祈願に似た儀式。現場に事務机などで簡単な祭壇を作って、鶏肉・豚肉・魚肉の“三牲”を始め、花やお酒や果物やお菓子やジュースなどなどいろんな供物を並べ、みんな*1で線香を捧げ持ち、祈願の言葉を述べてから*2最後に三度お辞儀をする。そのあと“紙銭”を燃やしておしまい。
今の現場には可燃性物質を貯蔵している区域があちこちにあるため、プラント全体が「防爆区域」に指定されている。そのため原則として火を使うことができない*3ので、“紙銭”はわざわざプラント外に持ち出してから焼いている。
“紙銭”はたいてい黄色のざらざらした紙で、表面に赤い印刷がしてあったり、銀箔が捺してあったりする。聞くところによると、この銀箔が大きいほど“紙銭”の「額面」も上がるのだそうだ。大きさやデザインもさまざまなものがある。
街を歩くと、家の前でこの“紙銭”を焼いている光景によく出くわす。“紙銭”や、それを焼く専門の「炉」を売っている店もあちこちにあり、先祖供養関係の祭日はもとより、台湾全土で日常的にみなさん、この“紙銭”をぼんぼん燃やしている。一度に燃やす量もたいてい両手に一抱えはあるほどで、かなり多い。



▲これが“紙銭”。死者があの世で使うことのできるお金。この紐を解いて、少しずつ「炉」にくべていく。これを一度に数個から時に数十個は燃やす。焼くことがお金をあの世に送り届けること、つまり供養になるのだそうだ。表面や横に押してあるスタンプの絵柄もいろいろ。


▲銀箔を押しただけのものから凝った絵柄まで、あの世のお札のデザインもいろいろ。これらはどれも日常的に使われる廉価なタイプだが、もっと大判で絵柄も複雑かつ精緻な豪華版もある。


▲おまけ。これは死者にではなく、お廟にまつられている神様や、その土地を守護している神様*4に献上されるもので、“紙銭”とは別に分けて焼くのだそうだ。シャツやズボンや靴、櫛や包丁などの日用品、テレビなどの家電製品が絵柄として刷り込まれている。
来世もあの世も一切信じていない、台湾の人達から言わせれば人非人のような私など、地球温暖化のこともあるわけだし、毎日のようにあちこちでこんなに大量の紙を燃やしてる場合なのかな、などと思ってしまうが*5。もう少し“紙銭”をコンパクトにするとか*6、回数を減らすとか……できない相談なんでしょうねえ。伝統文化だからねえ。

*1:クリスチャンは参加しないようだ。

*2:職場にはたいがいこの「祝詞」のような言葉をしゃべる役の人がいる。

*3:線香の火だけは、そばに消火器とガス検知器を準備した上で許可される。

*4:「鎮守の神」というのだったか?

*5:もちろん職場でこんなこと、口にしないけど。

*6:時々白昼の街頭で、巨大なライオンの檻のような「炉」を使って、天を焦がさんばかりの火柱が上がっていることがある。たいていは会社や事務所単位で“紙銭”を焼いているところだ。