最近よくジムのトレーニング中に聞いている台湾の作家・蒋勲氏の講演で、『紅楼夢』第五十九回に登場する“薔薇硝”という薬の話が出てきました。
“薔薇硝”は薬というか一種の美容品みたいなもので、“杏瘢癬”という湿疹につける薬なんだそうです。全文検索したら、こんな一節がありました。
湘雲因說兩腮作癢,恐又犯了杏瘢癬,因問寶釵要些薔薇硝擦。
http://cls.lib.ntu.edu.tw/HLM/read/TEXT/body.ASP?CHNO=059
“杏瘢癬”は別名“桃花癬”とも言うそうで、ぽつぽつと薄いピンク色の発疹が出る症状のようです。まあ皮膚病の一種なんですが、蒋勲氏は「昔の人は発疹にもこんな美しい名前をつけていて、感心しますね。いまの私たちは“香港腳”みたいなネーミングをしますけど……」と言って笑いを誘っていました。確かに。
“香港腳”は、いわゆる「水虫」のことです。香港の人が聞いたら怒りそうですし、そもそもトランプ氏の“Chinese Virus”と同じたぐいの謂いで差別的でもありますが、おそらく辞書を引いて出てくる“腳氣”や“足癬”よりも人口に膾炙してしまっています。実は、ベンチプレスを挙げながら講演のこの一節に食いついてしまったのは、この二ヶ月ほど医師の指導を受けながら水虫の治療に取り組んでいるからでした。先般なにかの感染症で足の指が化膿してしまい、行住坐臥すべてに不便をきたしてのち、この際化膿した部分だけでなく足全体の健康を取り戻そうと考えました。
先日も通院して経過を見てもらいましたが、順調に治療できているようです。足の裏はもうほとんどきれいに「つるっつる」ですが、先生によればここでやめてしまうとしぶとい白癬菌は復活してくるので、もう少し塗り薬による治療を継続しましょうとのことでした。この塗り薬は基本的に市販されておらず、医師の処方が必要な「ルリコン」というクリームです。
『紅楼夢』に出てくる“薔薇硝”は良い香りがしそうですが、こちらは何の香りもしません。塗ってもすぐにさらっとした感触になってベタつかず、とても使い勝手がよいです。病院という場所に通うのが苦手な自分ですけど、きちんと専門家の指導を受けるのは大切だなと改めて思いました。