インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

小さな城下町で

  いつもは夜遅くまでかかる審査が、今日はなんと午後三時頃には終了。審査チームが変わるとこうまで違うのか。こう言っちゃなんだけど、審査の内容もえらくアバウトで、中国の人治主義をこんなところでも実感。
  思いがけず時間ができたので、出張に持ってきていた字幕翻訳の校正をホテルで済ませて、気がつくと五時過ぎ。今日は珍しく時間に余裕があるので、街を散歩することにした。
  ネットでこの街の地図を調べると、松下竜一氏の住んでいた家がホテルからほど近い場所にある。私くらいのファンになると、住所までそらんじているのだ(^^)。
  いかなる宗教にも帰依していない頭でっかちの私に故人の墓参りといった習慣などないが、『豆腐屋の四季』に登場した実家が指呼のうちにあるとなれば、にわか巡礼気分を抑えることなどできない。いやはや、私もかなりな俗物だということだ。
  夕暮れ迫る寂しい街角に、こぢんまりとした松下氏の実家はあった。顔を近づけてはじめて判読できる表札は、いまだ「松下竜一」のままだ。家のたたずまいに、かつて豆腐屋をやっていたという面影はない。周囲は瓦屋根が黒々とした古い家並みが多く残る場所で、松下青年が自転車の荷台に載せた豆腐をひっくり返したのもこの辺りかしらなどと、空想を巡らしたりした。
  家の敷地にくりくり目玉の雑種わんこがいて、警戒しながらも尻尾を振ってくれた。ミーハーだなと思いつつ、携帯電話で家の写真を撮る。松下さん、かつてあなたの作品に随分と励まされました。ありがとうございました。
  そこから五十メートルと離れていないところに福沢諭吉の生家があるので行ってみたが、あいにく五時で閉館となっていた。
  夕飯は、適当に入った洋風居酒屋で。若いお兄さんがたが野心的なメニューを開発している店らしく、炭火焼きの蟹にゆずを搾って食べるなど、どれも安くておいしかったっす。