インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

凶犯

凶犯 (新風舎文庫)

凶犯 (新風舎文庫)


  う〜ん、ものすごい小説だ。読み始めたらやめられず、ほとんど一気に読み終えてしまった。
  不勉強にして作者・張平氏の名前は、『天網』という作品をかすかに記憶していただけで全く知らなかったし、作品も読んだことがなかったのだが、大陸では非常に人気のあるベストセラー作家だそうだ。しかもこうした社会小説のジャンルでベストセラーになるのは希有なことだと翻訳者の荒岡啓子氏*1が「あとがき」で述べている。
  内陸部の辺鄙な山村で起きたショッキングな事件。この小説は、事件が起きるまでの六時間ほどと、起きたあとの数十時間ほどを交互に語りながらストーリーが展開する。どこか村上春樹の『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』の構成を思わせるが、この小説はエンタテインメントではなく実際に起こった事件が題材になっているという。
  事件前と事件後の経過がともに事件発生の瞬間に収斂していくようになっており、その緊張感の高まりぶりたるや次第に息苦しさを感じるほど。しかもあまりに鮮烈な表現にごめんなさい、途中で何度も気持ち悪くなってしまった。かの国の底知れぬ暗部が強烈な筆致で迫ってくる。読後も暗然として声が出ない。これはものすごく怖い小説だ。
  id:Ctransさんのところで『週刊文春』に米原万里氏が書評を書かれていると知って、早速読んだ。

  ……まさにこのような小説を通して、私たちは隣国の人々の暮らしをわがことのように生き生きと体験でき、その苦悩や絶望に同情し、強者にへりくだり弱者に残忍な人間性や権力腐敗の構造にわが日本、日本人と似通ったものを痛感し、奇蹟の経済成長を続ける隣国が抱える深刻な問題を知る一方で、その恥部を徹底的にえぐり出し、立ち向かう主人公や作家の存在に中国という国と中国人に対する愛着と尊敬と希望を感じ取るのである。
  ――『週刊新潮』1月19日号「私の読書日記」

  ……さすがだなあ。

十面埋伏〈上〉

十面埋伏〈上〉

十面埋伏〈下〉

十面埋伏〈下〉


  こちらも張平著・荒岡啓子訳。書店で平積みになっているのを何度か見たが、おバカな私はよく確かめもせず映画『LOVERS』の原作本かノベライゼーションだと勘違いして*2手にも取らなかった。これも読んでみよう。

*1:この方の翻訳もすごい。

*2:映画の原題が“十面埋伏”なのだ。

語学力

  米原万里氏はこうも書いている*1

  その国の小説が堪能できるほどの語学力こそ通訳能力の必須条件。逆に通訳出来るほどの語学力がなくては小説の理解はおぼつかない。もちろん、まず何よりも母語の日本語で。

  「母語の日本語で」というところもうなってしまうが、ううむ、こう言われると私などまだまだまだ語学力が足りない、プロの通訳者とは言えないと思う。なにせ中文を前にいつだってどこかに霧がかかったような感じで、すっきりくっきりはっきり読めないんだから。堪能しているなどとはとても言えない。呻吟してる(笑)。

*1:米原氏はこの言葉を宇多文雄氏の受け売りだと言っているが。

通告/case

  “通告”は日本語と同じ「通告」という意味だが、芸能界で“明天早上有通告。”などと使うと、これは「仕事」のことらしい。“臨演(エキストラ)”などが通告を受ける、つまり仕事のお呼びがかかるごとに出動して撮影にのぞむ、というあたりから“通告”=出演依頼=仕事となったのだと思うが、どうやらエキストラだけじゃなくて大俳優であっても、仕事のことは“通告”と言うらしい。芸能界特有の言いまわしかな?
  これとは別に、台湾では仕事のことをよく“case”と言っている。“談case(商談をする・仕事の打ち合わせをする)”とか“接case(仕事を受ける)”とか“找case(仕事を探す)”などのように。

折り返し?

  いつもの通り輪ゴムの交換。この輪ゴムは、歯に接着されているブラケットにワイヤーを固定するための物だ。いつも歯科医の手際がよく、パチンパチンとリズミカルに留めていく。目を閉じているからよく分からないが、どうもペンチのような工具でパチンパチン切っているようだ。輪ゴムなのに切る動作……というのはどういうことなのかずっと不思議だったのだが、昨日やっとその理由が分かった。

  ↑こういう形をしていたのだ。この一つ一つの輪っかをブラケットにかけては、プラモデルのパーツのように根元をペンチで切っていたのだな。私のゴムは透明だが、最近は様々な色の物もあって、おしゃれ感覚で楽しむ人もいるらしい。矯正器具もアクセサリーとして楽しんでしまえという前向きな発想ですな。
  昨日帰り際に先生が「予想以上に早く動いてます。次回から後半戦に入ります」とおっしゃった。矯正を始めて半年で、もう折り返し? 当初は二年以上かかると言われていたので、かなりの期間短縮にびっくりした。
  夕飯を食べていると、突然下の奥歯のブラケットがとれる。長さ五ミリ程度の非常に小さな金具なので、飲み込まないように注意しながら取り外した。ううむ、今日は歯科医の定休日だし、困るなあ。