インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

カリカチュアの危うさ

昨日書いた「クックドゥ」のCM、その奇妙な中国語の発音について書きましたけど、これ、もしかするとギャグでやっているのかもしれないな、と思いました。

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異文化や異言語を題材にして「カリカチュアライズ(戯画化)」するというの、お笑いの一手法ではありますよね。漫才などでも大阪VS東京みたいなネタはおなじみですし、中国語の漫才にあたる“相聲*1”でも、方言の違いをネタに取り上げるのは古典的な手法です。

例えば、こちら。

youtu.be

先住民族の会話は情熱的だからそのぶん「長ったらしい」けど、中国語(國語)はそれを四文字、台湾語なら三文字、客家語なら二文字、そして山東方言なら一文字で表現できちゃうと。わはは。こういうのを聞くと、やはり中国語の“相聲”は「言語芸術の精華」だなあと思います。

ただ、この“相聲”はまだしも、こうしたカリカチュアは表現の仕方によっては差別的なニュアンスを帯びる危険性があります。異なる言語のネイティブが見聞きすれば、どこかバカにされたような気になることもあるのではないでしょうか。この点で、くだんの「クックドゥ」CMは少々危ういかなと思ったので、試みに中国語母語話者の留学生にこのCMを見てもらい、感想を聞いてみました。

まずは「なんだこれ〜」という笑いの反応。それにジャニーズの山田涼介氏がカワイイという反応(まあ、それは置いておいて)、続いて、やはり「ちょっと不快」という反応も見られました。中国語とはこんなものという勝手なイメージで、どこか軽く扱われている感じがするようです。確かに、これを逆の構図に置き換えて、例えば諸外国の芸人さんが奇妙な発音で「スーシー、テンプーラー、フジヤーマー、ゲイシャー」などとはしゃいでいたら、ちょっとムッとしませんか? え、しない? そうですか……。

勝手なイメージといえば、先日はTwitterのタイムラインにこのツイートが流れてきました。

この記事ではまず台湾における「日本女性」のステロタイプなイメージを紹介しています。それは、①日本統治下にあった当時に起源があると見られる「淑女」というイメージ。②家事に長け、夫に尽くすといういわば「良妻賢母」的なイメージ。③台湾では「原則的」に販売が禁止されているAV、つまりアダルトビデオに登場するいわば「消費される性」としてのイメージ、です。

こうしたステロタイプなイメージに乗っかる形で、現在台湾で活躍中の日本人女優が男性用避妊具を手に微笑むといった構図の広告を打つのは、日本人女性に対する一面的な見方の助長という点でも、性差やジェンダーの意味や実相の多様性が再認識されつつある現代の視点からも、かなり危ういのではないか、というのが記事の骨子でした。

広告の受け取り方は人それぞれだとはいえ、筆者の栖來光氏がおっしゃる通り、台湾のこの避妊具の広告は日本人女性へのステロタイプな、しかも多分にセクシャルなイメージを利用しているのは明らかではないかと私も感じました。心中穏やかならぬものを覚えます。

実際私自身も、台湾で同僚からこうしたステロタイプに乗っかった物言いを聞かされたことがあります。また台湾の、例えばバラエティ番組などで、出演者が“牙買碟(yámǎidié=やめて)”や“一庫(yīkù=いく)”などの“A片(アダルトビデオ)”を連想させる台詞をベースにした台湾風日本語で下卑た笑いを取るのを見ていて「ムッとした」こともありました。

異文化や異言語に対するカリカチュアは、ある程度まではユーモアとしての笑いをさそい、コミュニケーションの潤滑油にもなるとは思います。また、多少言葉をからかわれても「そっちこそ」と返すくらいの逞しさ*2もあってこその異文化コミュニケーションでもあろうとは思います。

でもやっぱり、そこはそれ、異文化異言語の人と日頃からつながっておいて、少しでも「危ういかな」と思ったらとりあえず意見を求めてみる、という慎重さも必要じゃないかなと思った次第です。この二つの広告からは、異文化や異言語を利用して伝えようとするときのある種のデリカシーのなさを感じてしまったのでした。

*1:シャンション(xiàngsheng/xiàngshēng)。落語や漫談のように一人で行うものから、二人、あるいはコントなどのように三人以上の場合もあります。

*2:例えば「大阪人は『でんねん、でんねん』うるさいな」と言われたら「東京もんかて『じゃん、じゃん』うるさいやん」とか、「日本人は“很好”の“很”がベタベタの『ヘン』で、なんかヘン」と言われたら「韓国人だって“在”が『ジャイ』だから“現在不在”が『シェンジャイブジャイ』で、意味なくカワイイ」みたいに応じる、といったような。分かりにくくてすみません。