インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

いつも更新を楽しみにしている絵日記サイト「ブタヅラ」の六月十四日号「ジャガイモ」がおもしろかった。実際にリンクで飛んで見ていただきたい。お母さんが「ジャガイモが安かったから買ってきたわ」と筆者に差し出す。だが筆者が「ほんやくコンニャク」を食べると、お母さんの言葉は「ポテトサラダ喰いたいから作れ」に聞こえるのだ。
これは「発言者の意図を訳す」通訳の本質を捉えていて興味深い*1。もしこの「ほんやくコンニャク*2」の役割を通訳者が負った場合、訳出は「文字通り」にすべきか、それとも発言者の真意をくんで「ポテトサラダ作れ」と訳出するか。通訳者がこの会話をしている双方に関する背景知識を十分に理解している場合、後者も可能だ。しかし発言者はいきなりそこまで単刀直入に訳出してほしくないかもしれない。最初は周りから攻めて、相手に「じゃあポテトサラダでも作ろうか」と言わせるのが発言者の意図かもしれないからだ。
実際の通訳では、よくこうした場面に遭遇する。今日の会議はどういう戦略でいくのか、事前のブリーフィングが大切な理由はここにもある。しかしまた実際の通訳では(特に私はインハウス通訳者なので)、そこまで周到な準備をさせてもらえないことのほうが多い。いきなり会議が入ったり、内容が企業秘密に属する事柄であったりして、詳しい背景を教えてもらえないこともある。
企業秘密については、通訳者としての契約の際に守秘義務についても一筆入っているから、もう少し信用していただきたいものだ。が、実のところ、別に私にあえて背景を教えていないということでもないらしい。要するにやはり例の「言った通りに訳せばよい」から抜け出せていないのだ。
昨日の会議でもそんな場面があった。日本側には、台湾側の矛盾をついて相手から「そんな操作は不可能だ」という言質を引き出したい、という意図があったようだ。だがそれを引き出すのに極めて日本語的な、情緒的な物言いをする。それをそのまま忠実に「言った通りに」訳しても、台湾側はちんぷんかんぷんだ。言質を取りたいという意図が事前にわかっていれば、通訳者もどこまで「言った通りに」訳せばよいか、どこまで意をくんで訳せばよいか……と、いろいろやりようがあるのだが。
この「ブタヅラ」、はっち〜さんという女性が描いているのだが、とにかく絵がうまい。ちょっとしたディテールにも見識の広さと観察眼の鋭さが見て取れる。こういうのは生まれついての才能であって、絵を学んで習得できるものではない。

*1:この作品では「ほんやく」になっているけれど、まあそれはさておき。

*2:ドラえもんの「秘密道具」。これを食べると相手の言語は自分にわかる言語で聞こえ、自分の言語は相手にわかる言語となって届く。