インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

弔旗を見かけました

先週の金曜日、つまり3月11日はいつものようにお弁当を作らなかったので、お昼休みに職場の外へ買いに出かけました。お弁当を買った帰りにとあるオフィスビルの前を通りかかると、弔旗が掲げられていました。一瞬「えっ、誰か有名な人が亡くなったっけ? それともウクライナ情勢に鑑みて?」などととんちんかんな想像をしましたが、すぐに気づきました。もちろん東日本大震災の犠牲者を追悼するためですね。

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旗をポールの半分ほどの位置で形容する半旗ではなく、この写真のように旗の上に黒いリボンを付す弔旗を見たのは久しぶりです。旗日に日章旗を掲揚するオフィスはけっこうありますが、弔旗はちょっと珍しいんじゃないかと思ってネットで検索してみたら、閣議了解のうえ各省庁へ「弔意表明の依頼」が出されていたようです。例えばこれ

さらに各省庁が所管する民間組織にも同様の依頼がなされ、それでくだんのオフィスビルもそれに従って弔旗を掲揚したというわけです。この依頼で興味深かったのは弔旗の掲揚方法についてこんな指示があることです。

弔旗掲揚については、「大喪中ノ國旗掲揚方ノ件」(大正元年7月30日閣令 第1号)に準拠し、竿球は黒布をもって覆い、旗竿の上部に黒布を付することとするが、弔旗として半旗掲揚の慣行のあるところでは、それに従ってもよいこと。
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なるほど、明治天皇崩御の際に定められた閣令が今でも生きていて、それに倣ったものなのだと。大喪、つまり天皇の葬儀の際にのみ用いられる弔旗の方式を借用して広く震災犠牲者の追悼にも使うことにしたわけです。それだけ国としても巨大な、天皇崩御にも匹敵するほどの災難であったという意識の表れなんでしょうね。

大喪中ノ国旗掲揚方 - Wikipedia

私個人は日章旗に対していろいろと思うところはありますけど、追悼という意図はもちろん分かりますから、とやかくは言いますまい。ただ、大喪用の格式をこうやって簡単に拝借しちゃうことに普段あれだけ皇室の伝統がどうのこうのとおっしゃっている方々は何も言わないのかしら、とちょっと気になりました。

ともあれ、私は旗とか徽章とか、そういったもので権威づけされるものをありがたがる心性は苦手なので、3月11日はひとりで静かに黙祷を捧げました。