出版界で、もはや一ジャンルを形成しているといってもいい「英国礼賛本」。この本はそうした礼賛一辺倒とは一線を画して、かの国の影の部分にも光を当てようとするもの。
著者と同姓のあの「先生」をはじめとする、紅茶・ガーデニング・豊かな暮らし・大人の国・人生の智恵……あたりをキーワードにした本を個別撃破するのかなと思ったが*1、さにあらず。この本で読みごたえがあったのは、第一次世界大戦から今日に至るまでの世界情勢、なかでもそこで英国が果たした役割をおさらいする部分だ。アヘン戦争から現代のテロリズムまでを論じる著者の視点は、バランス感覚に優れたものだと思った。
この本の内容としては傍流だが、通訳について書いた部分もおもしろかった。
外国語が得意な人は、通訳を使うことを嫌うというか、バカにする傾向があるが、これは正しい態度ではないと思う。意外な落とし穴に気付いていないだけである。
まして交渉ともなれば、こちらには相手の言うことが分かっていて、相手にはこちらの言うことが分からない、という状況なら、通訳を介することで、相手の言い分を聞いてから答えるまでの「待ち時間」が、こちらだけ倍になるではないか。英語の表現に四苦八苦しながら話し合うのと、どちらが有利か、考えるまでもあるまい。だから、「社内での英語公用化」など、やめろと言っているのだ。
ここでは、クライアントが英語を解し、なおかつ通訳者を使う場面を想定している*2。確かに、いくら得意とはいえ母語ではない言語で交渉に望むのは不利だ。もちろん、通訳者を使うことで生まれるリスクもあるのだけれど。