インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

ブラボーおじさんと雑音許せないお兄さん

昨晩はキット・アームストロング氏のピアノリサイタルに行ってきました。プログラムはクープランパッサカリア、 バッハのトリオ・ソナタフォーレの「9つの前奏曲」ほか、17世紀イギリスのウィリアム・バードのチェンバロ曲や、リストの「バッハの動機による変奏曲」など「難しめ」のラインナップでした。

開演前にご本人も登場してのインタビュータイムがあり、このプログラム構成の意図について聞かれると「必ずしも聴く側が楽しめるだけではなく、作曲家自身がどのような考えの末に曲を作り出したのか、いわば作る側の楽しみも感じつつ演奏したい」みたいなことを啓蒙思想なども絡めながら話されていました。う〜ん、これもなんだか「難しめ」(長い長い発話を落ち着いて淀みなく、ひとつの冗語も差し挟まずに伝えた通訳者さん、素晴らしかったです)。

でも演奏が始まってみれば、そのクリアで美しい音の世界に存分に浸ることができました。クラシック音楽をホールで聞くのは久しぶりだったのですが、やはりいいものですね。

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ところで、私はホール後方右側の通路脇に席を取ったので、斜め左前方にある舞台が見やすい位置だったのですが、私の前に座られた細い縁の眼鏡をかけ、薄いセーターを肩から羽織った、30代後半とおぼしき痩せ型の音大大学院生風(ステロタイプな偏見ですね。ごめんなさい)な男性が、上半身を左側に「ぐ〜っ」と乗り出して聞いてらっしゃったので、舞台の演奏家がほどんど見えませんでした。

まあピアノリサイタルは別に舞台を見てなくてもいいので、音に集中して楽しんでいたのですが、この男性、なぜか頻繁にホール内のあちこちを、そして時には虚空を「キッ!」と睨むんですね。これが飼い犬か飼い猫だったら「やだ、そこに何かいるの?」ってホラーな世界になっちゃう感じです。

そんなこんなで、リサイタルが終わってアンコールの拍手も鳴り止み、みなさんが帰り支度をしている中、この男性は通路を挟んで左斜め数列前に座っていた初老の男性のところにつかつかと歩み寄ると「×××じゃねえよ(聞き取れず)、迷惑なんだよ!」と怒鳴っていました。そして戻って来ながら「ったく、あのクソジジイ!」とも。リサイタルの余韻がいっぺんに吹き飛んでしまいましたが、同時に心の中で「お・ま・え・が・言うなぁっ!!」とツッコミを入れてしまいました。

たぶんこの男性は、リサイタル中のほんの少しの雑音も許せない方なんでしょうね。くだんの初老の男性の何かが気に入らなくて、終演後に不満が爆発してしまったようです(もっとも同じ方向に視線を向けていた私は何も感じませんでしたが)。たしかにピアノのソロリサイタルはそういうデリケートな雰囲気ではあります。とはいえライブですからね、そして聴衆も生きている人間ですからね、そりゃある程度の雑音は入りますって。

私は海外でクラシックのコンサートを聴いたことは数えるくらいしかありませんが、こういうお兄さんが出没するあたり、日本のクラシックコンサートはちょっと神経質すぎるような気がします。そりゃまあ「ブラボーおじさん」みたいなのは勘弁してほしいと私も思いますけど、もうちょっと肩の力を抜いて、寛容の心を持って楽しみましょうよ。せっかくの美しい音楽なんですから。

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