インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

留学生と小謡

留学生の通訳クラスで「通訳実践トレーニング」という科目がありまして、私が担当しています。「通訳実践」だから現場に出てどんどん通訳をする……のではなく、通訳を実践するために必要なさまざまな基礎的トレーニングを行うという科目です。だからほんとうは「通訳実践のための基礎トレーニング」とでもすべきかもしれません。いろいろ分かりにくくてすみません。

で、この科目は日↔英通訳を学んでいる留学生と、日↔中通訳を学んでいる留学生が一緒に参加するので、基本的には「訳さない通訳訓練」を行っています。通訳なのに訳さない?……と疑問に思われるかもしれませんが、要するにこれは全員の共通スキルである日本語のみを使って、訳す前に必要な日本語の発声や情報の伝達方法、パブリックスピーキング(人前で話す技術)などを学ぶ科目なのです。

来週は新しい年が明けて最初の授業日なので、少々特別な趣向を準備しました。それは「小謡(こうたい)」を体験するというものです。小謡とは、能楽の「謡(うたい:謡曲)」の一部を抜き出したもので、全体でも一分から二分程度の短いものです。有名なところでは結婚式などおめでたい席で謡われる「高砂」とか「四海波」とかが有名ですね。そして小謡の中には新年をことほぐものもあるのです……って、ほとんど私の趣味が入ってますが。

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小謡は、私の子供の頃だったら結婚式や家を建てるときの上棟式などで謡われていました。親戚か近所のおじさんおばさんあたりに趣味で小謡をたしなんでいる人がいたりして、うなるような声で「〽高砂や〜」などとやっていたのです。もっとも私は子供心に「あれはなんだろう。ずいぶん暗い歌だな」くらいにしか思ってませんでしたけど。

試みにYouTubeで検索してみましたら、いくつか祝言や上棟の席で謡われている映像がありました。いまでもこういう文化は残っているんですね。

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こうした動画を検索している途中で、能楽喜多流能楽師、大島輝久氏と大島衣恵氏による小謡のチャンネルを見つけました。以前から大島能楽堂のチャンネルはフォローしていたのですが、新しいコンテンツが加わったようです。しかもここには解説とともに「高砂」「四海波」「千秋楽」「羽衣」「江口」「融」などが並んでいます。素晴らしいです〜!

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大島能楽堂_小謡 - YouTube

留学生の通訳クラスでは、これらの映像も紹介しながら、留学生諸君にも実際に大きな声で謡を謡ってもらおうと思っています。実はこれ、毎年やっているのですが、けっこうみなさん興味津々で参加してくださいます。普段は現代日本語だけを学んでいる留学生ですが、ふだん慣れ親しんでいる歌や音楽とはかなり異なる古典の雰囲気が新鮮なのかもしれません。

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小謡はおめでたい席だけでなく、例えばお葬式で謡われるものもあります。私は死んだら葬儀もお墓もいらないと考えているような人間ですが、弔いに小謡の「融」を謡ってもらえたら嬉しいです。

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影傾きて明け方の
雲となり雨となる
この光陰に誘われて
月の都に行き給う装い
あら名残惜しの面影や
名残惜しの面影

素敵だと思いません?