インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

留学生が挑戦する「容赦のない日本語」

秋は学園祭や文化祭の季節です。私が奉職している学校では通訳訓練の一環として「演劇」を取り入れており、訓練の成果を文化祭で発表するので、留学生のみなさんはただいま稽古の真っ最中です。

留学生の「出し物」というと、日本語がまだ拙いからということでしょうか、往々にして「日本昔ばなし」みたいな平易な物語を選んだりしがちなんですが、留学生だって立派な大人ですし、向学心が人一倍あってわざわざ日本に留学しているのですから(たぶん)、容赦のない日本語で容赦のない台本を作ります。

ネット上に「脚本登録&公開サイト:はりこのトラの穴」というサイトがあり、こちらで公開されている台本に、原作者の方々の承諾を得て多少の改変を行い、教材としています。今年は「世界三大料理」と「ベタ禁止法」というお芝居を選びましたが、いずれの原作者の方も、留学生が日本語で演劇に挑戦するということで、台本の改編や文化祭での上演(無料です)を快諾してくださいました。本当にありがとうございます。

世界三大料理」は、フランス料理・中華料理・トルコ料理という既存の「御三家」に取って代わろうとする和食やイタリア料理やタイ料理や……の議論を描いた喜劇です。

「ベタ禁止法」は、「ベタ」、つまりありがちなシチュエーションを禁止する法案が国会に提出されたという前提で、ニュース解説番組でその実例や対策などを紹介するという、これまた喜劇です。

二本とも基本的に「ドタバタ」なんですけど、日本で外国人が感じる「あるある」ネタや、現在の国際情勢などを織り込んで、留学生ならではのお芝居になりつつあります。上演日は11月2日と3日。ご用とお急ぎでない方はぜひ観劇にお越し下さいませ。あ、もちろん無料です。
f:id:QianChong:20181022083405p:plain
https://www.irasutoya.com/2017/04/blog-post_651.html

D館の「D38a」教室です。

  世界三大料理 ベタ禁止法
11月2日(金) 13:30/14:30 13:00/14:00
11月3日(土) 11:00/13:30/14:30 10:30/11:30/13:00/14:00

http://www.bunka.ac.jp/contents/2018bunkasai.pdf

日本語の性差

稽古をしていて面白いなと思ったのは、多くの留学生が、セリフに出てくる「男性言葉」と「女性言葉」に存外苦労しているという点です。確かに、言葉にこういう性差のようなものがはっきり現れるのは、日本語の特徴のひとつかもしれません。

他の言語にだってこうした差が全くないわけではありませんが、例えば中国語ではかなり少ないです。もちろん話し方のニュアンスや表情で「女性っぽい」とか「男性っぽい」という差はいくらでも作ることができますが、字面としてのはっきりとした性差はあまりない言語だと言えるでしょう。

それでも、全くないわけではありません。中国語は話者の多さもあって実にグローバルな言語であるため、地方によって差が大きいのですが、例えば私が以前、道端でかわいい子犬を見かけて“蠻可愛(すごくカワイイ)!”と言ったら、中国は北方出身の中国人に「ちょっと女性っぽい」と指摘されました。

“很可愛”なら「ニュートラル」なのですが、“蠻可愛”は「女性っぽい」。でもこの言い方、南の地方や台湾などでは男女を問わず誰でも使う言い方ではないかと思います。

また中国語で、時に他人を指し、時には自分のことも指せる“人家”という言葉がありますが、これを自分のことに使うのは「女性だけ」だと台湾出身の知人に言われました。男性が“人家要去便利店啦(コンビニに行ってくるわ)”を使うと「何かヘン」だというのです。

その台湾の知人からは逆に、日本語で「オレ、まだUSJに行ったことないわ」の「わ」はどういうことなのか、これは女性言葉ではないのか、男性が使ってもおかしくないかと聞かれました。

なるほど、「〜わ」は一見「女性言葉」のように見えますが、この場合の「わ」はむしろフランクでぶっきらぼうな感じというか、男性ならではの言い方のような気がします。逆に「〜わ」とか「〜だわ」などの女性キャラを表現する「役割語」を実際に使っている女性はあまりいないようにも思えます。面白いですね。

でもまあ、現代にあっては、性差にこだわるのもすでに時代遅れかもしれません。それぞれが自分で話していてラクだったり楽しかったりすれば、どう話すのも自由じゃないかと思います。女性が「おれ」とか「わし」とか言うのは個人的には慣れないけれど、それも含めて自由じゃないかと。

周りがそれに違和感を覚えてたしなめたり、逆にウケて盛り上がったり、それぞれの場所でのそれぞれの人間関係で落ち着くところに落ち着けばいいと思います。それを日本語の乱れという人もいるでしょうけど、私は基本的に言葉は流転していく・いかざるを得ないものだと思っているので、いいんじゃないかと。

留学生のみなさんも、男性が女性用に書かれた台詞をそのまま言ってみたり、女性が男性っぽい台詞回しだったり、さらにはユニセックスな感じで演じる人もいて、もともと母語も民族も様々な国々から集まっている留学生のクラスということもあいまって、なかなかクロスオーバーかつダイバーシティあふれるお芝居に仕上がりつつあります。

予算が少ないので照明も音響も衣装も道具類も手作りのチープな舞台ですが、日本語が母語ではない留学生がここまで「容赦のない」日本語で演技をするというのは、これはこれでなかなかの見物ではないかと自負しています。ぜひご高覧いただけたら幸いです。