インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

通訳者の「向き不向き」

先日仕事の現場で、十数年ぶりの懐かしい方に再会しました。某企業のインハウス(社内)通訳者として働いていた頃ご一緒したことのある、他の企業のエンジニアさんです。当時を振り返って、こんなことを言われました。

門外漢だけど、ずっと同じ現場で同じ技術について通訳していらしたから、なまじ新参の社員よりも詳しくて、客先からの質問に直接答えていることもありましたね。

どきっとしました。もちろんその方はほめてくださったのですが、そもそも通訳者が訳すことを端折って自分で話してしまうのは「タブー」だからです。もちろん、インハウス通訳者の場合、効率のために通訳者自身が話すこともないとは言えないんですけど。

現場で漏れ聞く、通訳者に対する苦言でよくあるのは「通訳者が勝手に端折って訳してくれていないようだ」「通訳者が自分を差し置いて勝手に喋ってしまう」というものです。

これ、統計を取ったわけではないから確かなことは言えませんが、私がクライアントから直接聞いたケースを総合してみると、申し訳ないけれど日本企業で働かれている華人で、大学や通訳スクールなどで通訳訓練を受けたことがない方に多い現象のようです。通訳者はあくまでも原発言者に成り代わって喋っているだけで、自分の判断で自分の意見を喋ってはいけないという本質的な部分がどうしても分からないという方がいるんです。

たとえ自分が熟知している内容で、いちいち訳さなくてもいいじゃん、訳していると非効率じゃん、と思ったとしても、通訳者が、自分の雇い主の理解できない言葉で相手側と話し始めてしまったら、雇い主は混乱状態に陥ります。通訳者は、どんなにわかりきった内容であってもいちいち律儀に訳出し、それ以外は一切付け加えも差し引きもしない、という自律・自制が効いていなければならないと思うのです。

まあ実際には、通訳という作業は単なる言葉の変換ではないので、付け加えたり差し引いたりするさじ加減はむしろ不可欠なのですが、それでも相手側が質問してきた時に、その質問内容を自分側の雇い主に伝えず、通訳者自らが答えてしまうのは「タブー」だと思います。でもその勘所が分かっていない人が一定数いるんですね。だから現場での苦言となって我々の耳にも伝わってくるのでしょう。

具体的な例がないと分かりにくいかも知れません。ちょうど先日、テレビ東京の『Youは何しに日本へ?』という番組を見ていたら、そのものズバリのシーンがありました。

【世界に誇るニッポンの○○にYOU大集結SP】
http://www.dailymotion.com/video/x3a7imy

47分53秒からの場面をごらんください。日本の「カワイイ」大好きな台湾人が「ロリータパーティ」へ参加するために来日し、その方に雇われたという通訳者の女性がそばについています。

インタビュアーの「お仕事、何されてるんですか」という質問に対して、通訳者が直接「大きな会社の社長秘書」と答えています。それは事実なのでしょうし、時間の節約にもなるのでしょうけど、ここはインタビュアーの日本語の質問を律儀に中国語に訳して、雇い主の台湾人に伝えなければいけません。

たったこれだけなら大したことはないように思えるかも知れません。でも、これが続けばこの台湾人の女性はどんどん不安な気持ちになることが予想されます。そして、そういう予想ができるか、そういう想像力が働くかどうかが、サービス業としての通訳者の「向き不向き」に関わると私は思っています。

そして、学校で教えていて一番困難を感じるのが、この「サービス業としての通訳者の本質」部分なんですよね。なぜだかは分かりませんが、こういった部分がどーーーしても分かってもらえない種類の方が、たまにいらっしゃるのです。もちろん「向き不向き」なんて言い出したら「商売」にならないので、理を尽くして説明しますけど。