インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

日本語と中国語

日本語と中国語

日本語と中国語


  かつて周恩来毛沢東らの通訳者をつとめたという劉徳有氏によるエッセイ。ご自身が通訳や翻訳の現場で格闘してこられた、彼我の文字や言葉に関するさまざまな話題が紹介されている。

  何度かご本人を直接お見かけしたことがあるが、母語ではない日本語で書かれたこの本の文体同様、古風で落ち着きのある方だった。ただし中華人民共和国の文化部副部長(副大臣)までつとめた方だけに、政治的な絡みのある論旨は、おおむねかの国の公式発言ふう。
  この本のテーマの一つに、日中はなぜすれ違うのか、なかなか分かり合えないのかというのがある。その脈絡で冒頭に、似て非なる日本と中国のすれ違いを象徴するエピソードとして弁当の話が出てくる。よく引き合いに出される例だが、こういうものだ。

  数年前、日本のプロデューサーが中国から俳優を呼んでテレビ番組を作ったときのことである。昼食にはテレビ会社が用意した仕出し弁当が、日中双方の俳優、スタッフに配られた。それが数日続くうち、中国側から不満の声が上がった。
  「なぜ、毎日われわれ中国人に冷や飯を食わせるんだ。われわれは冷遇されに日本にやってきたのではない」
  これが中国人スタッフたちの声であった。

  基本的に冷たいご飯を好まない中国人。日本人スタッフも同じものを食べていると慌てて説明する日本側。結局中国側に卵スープをつけることでようやく丸く収まったという顛末を紹介して、劉徳有氏はこう続ける。

  これなどは生活習慣の文化の違いによるトラブルだが、現在の両国間のしっくりしない関係を見るにつけ、こうした些細な行き違いが、やがて大きなしこりとなりかねないことを私は半ば本気で心配している。

  私も劉徳有氏同様、「はあぁ、何でもっとお互いがよく理解し合えないかねえ」とため息をつきたくなる。
  が、何だかしっくりこない。「郷に入っては郷に従え」という言葉は中国語にもあるわけだし、ひとさまの国に行ったら多少は我を抑えるべきじゃないのかなと思ってしまう。まあ日本人にだって、海外に行ってわがままばかり言う人はいくらでもいるが、少なくとも私は上記の中国人スタッフのようなセリフは言えない。
  その中国人スタッフにも「こういう弁当が日本式なんだから理解して食べよう」と考える冷静な人はいただろう。が、結果として卵スープをつけさせちゃったというのがなんとも暗然とした気持ちにさせられる。きっと日本側スタッフには複雑な感情ばかりが残っただろう。こういうとき、卵スープをつけるという方法をとらずに解決するすべはないものだろうか。
  この番組、ひょっとしてドラマの『ウソコイ』?