インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

エクソフォニー

多和田葉子氏と新井一二三氏は、ともに好きな作家の一人。多和田氏はドイツ語、新井氏は北京語と、お二人とも自分の母語以外の言語で作品を発表されている*1。私など、母語である日本語で書く文章だってきちんと自立しているかどうか怪しいというのに、彼女たちは言葉の向こう岸へ軽々と飛び越えて行っている。もちろん実際には内側でさまざまな苦労や努力をされているのだろうが。
多和田氏がキーワードとしてよく用い、著書の題名にもなっている「エクソフォニー*2」という言葉がある。ドイツ語で「母語の外に出た状態一般」を指すのだそうだ。私も時々北京語で文章を書いてみるのだが、母語の外に出た状態というのは多和田氏が言う通り、確かにとてもおもしろく刺激的だ。
北京語で文章を書くときは、直接北京語で考えて書いている。時には「日本語の『○○○』というニュアンスはどう書けばいいかな」と思って辞書を引くこともあるが、基本的にはいきなり北京語で書いていく。すると、自分の北京語能力がまだ低いからだろう、頭の中にあるイメージから少々ずれた(時には大幅にずれた)文章になってしまうことがある。ちょっとおおげさに言うと、まるで何かに揺さぶられて自分が変質していくような感覚があるのだ。
自分が北京語で書いた文章を逆に日本語に翻訳しなおしてみたことがある。言葉の彼岸から此岸へ戻ってきた文章に表れている自分は、ずいぶん違って見えた。「オレってこんな人間だっけ?」……これが私にはとても新鮮に感じられる。
ま、そんなに不安定な文章など、「正確な翻訳」という観点からすると、とんでもないことなんだろうけど(笑)。
以下はブログでこれまでに出会った「エクソフォニー」な方々。とりあえず日本語と北京語の、最近まで継続的に更新されているサイトだけご紹介。漏れているものがあれば、ぜひお知らせください。

そうだ、stylecafeさんを忘れていた。建築やプロダクトデザインがご専門のようだが、この方も日文がうまくて最初は華人だと気づかなかった。


*1:多和田氏には日本語作品も多数ある。新井氏の日本語作品はまだ読んだことがない。

*2:この本は非常におもしろい。おすすめ。岩波書店/ISBN:400022266X