《中國時報》昨日の社説から。このところ台湾の新聞で継続的に報道されているトピックのひとつに“古根漢(グッゲンハイム)美術館”の誘致問題がある。ニューヨークにあるグッゲンハイム美術館は、フランク・ロイド・ライトの斬新な建築と共に近現代美術の宝庫として知られる世界でも指折りの有名美術館。そのアジアでは初めてとなる分館が台中に誘致されるのされないので、ここのところずっともめている。
私はあまり詳しい経緯を知らないが、最近の報道を読む限り、すでにかなり泥沼化した政治問題になっている様子。
たぶん台湾側から巨額の資金持ち出しになることを懸念する声があったり、台湾中部の観光資源にという地元の思惑があったり、果ては台湾の国際的な地位にからむ問題ととらえられていたり、イギリスの建築家ザハ・ハディドのあまりにも斬新な建物(pdfファイルです)の設計に当惑したり……しているのではないかと思う。
この社説は、「台湾という国家の文明とは何ぞや」といった感じの、やや紅潮した面持ちの文章で美術館誘致推進の立場を説く。で、政府の「台湾本土」を強調する過度に内向きな姿勢を“ABC和「狗咬豬」,搭不在一起(ABCと“狗咬豬”は相容れない)”と揶揄している。どうやらABCが「グッゲンハイム美術館」に代表される「国際性や先進性」、“狗咬豬”が土着の「台湾本土文化」を象徴しているようだ*1。
この“狗咬豬”が一読、わからなかった。
調べてみると、これはどうも台湾では非常にポピュラーな「わらべうた」のようだ。
ABC狗咬豬/阿公仔坐飛機/跋一下冷支支
叫醫生/來甲伊醫/醫一下跤骨大小支/醫一下跤骨大小支
……こちらで発音が聴けます。
“ABC狗咬豬”の“豬”が「ディー」という発音(台湾語)で“D”を連想させ、しかも“機”や“支”と韻を踏んでいる。たぶんアルファベットの順番も知らない人がでたらめに言っているような滑稽さなのだろう。“狗咬豬(犬が豚を咬む)”というのも、とんちんかんでナンセンスな感じをかもし出す。
この詩(?)全体の意味はおおよそ、「じいちゃん飛行機に乗ろうとしたら/滑って転んで大あわて/医者を呼んだら藪医者で/左右の足の長さがバ〜ラバラ」といったところらしい。慣れないABCを口ずさむのと、慣れない飛行機に乗ろうとしてずっこけちゃうおじいさんがオーバーラップし、そこに藪医者が混乱に拍車をかけて……というドタバタ感がおもしろいのかな。日本語でいうと、う〜ん、「いろはにこんぺいとう」?
台湾の新聞にはよく台湾語の表現が出てくる。なかでもこういうわらべうたのような、子供の頃からの文化背景がないとわからないようなのは難しい。台湾語を母語とする人なら、“ABC和狗咬豬”というだけで「ニヤッ」とできるのだろうなあ。
*1:どうでしょうね? ちょっと単純すぎる対比のさせ方だと思うけど。