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インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

義父と暮らせば10:人はそれまで生きてきたように老いていく

くらし

やや旧聞に属するんですが、『朝日新聞』のサイトに「好々爺、いずこ」という興味深い記事が載っていました。中でも興味深かったのは、臨床心理士である信田さよこ氏のお話。

高齢男性からの相談は増えていますし、さらに増えると思います。多いのは、妻が出ていった、口をきいてくれない、子供もぐるになって自分を疎外している、といった訴えです。一人で食事をしなければならなくなったり、家族の中での孤独に耐えられなくなったりしてやってくる。でも、自分のどこが悪かったかという反省は、まずないのが特徴です。
(中略)
中高年男性が余暇で参加する活動に対して、アドバイザーが口を酸っぱくして言うのは、過去の自慢話をするな、社会的な地位は忘れろ、人の話を聞け、だそうです。そこから始めないとだめなんですね。
(耕論)好々爺、いずこ 信田さよ子さん、安藤哲也さん、菅原文太さん:朝日新聞デジタル

む〜、やっぱりそうなんだねえ。中高年男性の全てがそうだとはもちろん言えませんけど、この話、先日デイサービスの業者さんやケアマネさんからうかがった話とも符合します。

いわく、デイサービスのような新しい環境に入るためには、他人の話を聞き、他人との関係を調整するような気遣いが必要なんだけど、女性が比較的そういうものに長けている反面、男性はなかなか自分流を曲げなくて、結果溶け込めない。「俺はあんなとこヤダ」「俺はまだあんなに老いぼれてない」とかなんとか言って、結局デイサービスなどに参加しないで自宅に引きこもる人が多いと。うちのお義父さんなんかは、完全にそのタイプかもしれません。

お義父さんは、ときどき細君に向かって「俺の言うことを聞いてりゃいいんだ!」なんて言ったりして、衝突してます。やはり娘夫婦と同居ということになれば、これまでの一人暮らしとは環境が変わるし、お互い気遣いをする必要も生まれるわけで、こっちはこっちでストレスを感じるけど、お義父さんも同じようにストレスを感じる部分はあるのだろうなあと思います。

もっとも、お義父さんが「♪俺の話を聞け〜」とやる相手は細君だけであって、私には言いません。やはりそこはそれ、他人だからという遠慮なり配慮がお義父さんなりにあるのでしょう。だから、お義父さんだから、男性だから他人との関係調整能力が弱いと決めつけることはできないんですけどね。

結局、新しい環境に適応できるかどうかは、他人との調整力というか、もっと単純に思いやりとか公平で穏やかな心の多寡によると思います。だから、もともとそういうものをあまり育んで生きて来なかった人が、いざ定年なりリタイアなりの歳になって臨機応変に変われるわけはないんであって……う〜、もって自戒としたいと思います。

それから、これは先日ネットの『現代ビジネス』で読んだ記事ですけど、その中に印象深い言葉がありました。断末魔の苦しみにのたうち回りながら死を迎えたり、自分が選んだ治療法で晩年のQOLが極端に下がったり、心に大きな後悔の気持ちを残しながら亡くなったり、生前に不倫関係を清算していなかったために残された家族が大混乱になったり……という、胸ふたぐエピソードがてんこもりで読んでて辛い記事なんですが、最後の医師のコメントが印象深かったのです。

人は、死に直面しても、人格や考え方が大きく変わるものではありません。これまで、数々の方の死に立ち会ってきましたが、人は、それまで生きてきたように死んでいくものだと実感しています。
医師たちは見た!「あんな死に方だけは嫌だな」壮絶な痛み、薄れていく意識、耐えがたい孤独 | 賢者の知恵 | 現代ビジネス [講談社]

人は、それまで生きてきたように死んでいく。自分の晩年は、当然それまでの人生と不連続な突発的状況なのではなく、今の生き方の延長線上に必然的に立ち現れてくる状況なんですね。

前述の「好々爺、いずこ」には「妻は孫の進学が決まったタイミングを計って出ていきました。退職して一緒にいる時間が増え、変わるかと思ったのに、結局変わらないと、あきらめたんだと思います」という男性の述懐も紹介されていました。老境にさしかかって、変われるか変われないか。「人は、それまで生きてきたように老いていく」とも言えるんじゃないでしょうか。

余談ですが、友人から聞いた話では、本人が「自分が分からなくなってきていることが分からない」ので新しい環境を受け入れられないというのもあるんだそう。デイサービスに行っても「俺にはまだ不必要だ」と言っちゃう心理はそこにもあるのかもしれません。そして、その分からなくなっていることが分かった瞬間はかなりのパニックに陥るそうで、そこが危ないと友人は言っていました。うちは早晩そのステージに進みそうなので、今から心の準備をしておこうと思っています。