インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

台本

  文化祭では各クラスとも中国語劇を上演することになっている。だから文化祭というよりは演劇祭なのだが、私が担任をしているクラスのひとつは、その準備がなかなかはかどらない。あと一ヶ月ほどだというのに、まだ台本も固まっていないという。
  台本の担当者がかなり悩んでいる様子だったので、これはもう手助けするしかないなと思い、夜なべして中国語劇の台本を書き上げた。ある“相声*1”をベースにした、生徒一人一人が実名で登場する喜劇だ。一人一人の顔を思い浮かべながら、あの生徒はこういうキャラだから、こういう発言で……と考え抜いたオーダーメイド脚本。ちょっぴり文学の香りすら漂う。ごていねいに、日本語訳までつけた。いやいや、我ながら会心の作だよこれは。で、昨日彼らに台本を手渡したのだが――。
  あっさりボツにされました。わははは。
  やっぱり自分たちの力で何とかしたいんだそうだ。偉い。偉いけど、本当に大丈夫か。
  「どうしてもダメだったら、その時は先生の台本を使います」
  ボツだが、保険に取っておくというわけだ。ちゃっかりしてる。
  人がほとんど徹夜で仕上げたものにあっさりボツを言い渡したり、でも保険には取っておいてやると言ったり、なんとゴーマンな若者かと思われるかも知れないが、実は彼らには全く悪気というものがない。ニコニコと無邪気な顔をしてそういうことを言うのだ。
  少しも悪びれずにそういう行動に出てしまえるあたりが、いまどきの若者らしいところかもしれない。

*1:漫才や漫談に相当する中国の演芸。