インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

ブラッカムの爆撃機

ブラッカムの爆撃機―チャス・マッギルの幽霊 ぼくを作ったもの
  英国の児童文学作家・ウェストールの作品集。表題作『ブラッカムの爆撃機』に心酔する、宮崎駿氏によるマンガがついている。ウェストールという人の作品を初めて読んだけれど、これは確かにすごいリアリティ。第二次世界大戦中、ドイツを何百機という単位で爆撃したウェリントン中型爆撃機(通称:ウィムピー)の、機内の様子が手に取るように伝わってくる。上空の寒さ、曳光弾の光、エンジンの轟音。それに乗務員の体臭までにおってきそうだ。

  日本の零戦より多い11461機も量産されたというウィムピー。機体はジェラルミンと木材を竹籠状に組み合わせた上に布張りだった……なんて、今では信じられない。宮崎氏のマンガを通したこういう予備知識も、物語のリアリティをぐんと増してくれる。とはいえ、これは虚実入り交じったような不思議なプロットの物語なのだけれど。
  爆撃を終えた後、つまり敵とはいえ無差別に人を殺してきた後に、奇妙な爽快感、といって悪ければ脱力感を味わっている主人公の気持ちを、こんなふうに書いている。機長によって飛び方にポリシーがあることを説明しているくだりだ。

親父*1の場合は、雲とたわむれるって感じだった。雲の起伏にそって飛んでみたり、とがってるところをぐるっとまわってみたり、上きげんのスキーヤーみたいに、でたりはいったりしたり。なかなかよかった。それに爆撃地で炎やいやなにおいを味わったあとだったから、すっきりした気分になれる。ラグビーの試合のあとで、冷たいシャワーを浴びるときの気分にちょっと似てる。視界にはほかに何もない。まるで北極の上を飛んでるみたいなもんだ。

  実際にはプロペラエンジンの轟音が鳴り響いているはずなのだが、この静けさといったらどうだ。『天空の城ラピュタ』でシータとパズーが見張り用の凧で雲の上に出たシーンを思い出した。翻訳者・金原瑞人氏の腕も素晴らしい。

*1:主人公の乗っている爆撃機の機長。