インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

最近あるプロジェクトの現場工事がほぼ終了したので、それを祝って夜の宴会が何度か開かれている。宴会での通訳は会議と勝手が違うので苦手だ。
まず困惑するのがお偉方のすぐ隣に座らされること。宴会はたいがい円卓で、最も上座に座るのがホスト側とゲスト側双方のトップ。残りはそこを中心にして、日本側と台湾側の幹部が交互に着席する。通訳者はふつう日本側のトップの脇に座らされる。しかも後ろに控えるのではなくて、他の人と同様に箸やお皿やナプキンがセットされている席につく。私など、年齢的にも「格」からいっても明らかに場違いで、なんとも居心地が悪い。
こうして「一人前」に着席すると、当然酒も注がれるし料理も運ばれる。通訳にかまけて全く手をつけないとまわりからすすめられるし、かといってあまり飲んだり食べたりしていると通訳できない。
それからどこまで訳すかの見極めが必要だ。宴会も最初のうちは社交辞令的な挨拶の応酬ばかりで、これは通常と変わらない。だが、そのうちお酒が回ってくると気軽な話題やジョークのやりとりになる。このあたりも、まあ普通の通訳で済む。
さらにお酒が回ると、みんなてんでバラバラにしゃべり出し、お互いがお互いの言葉をあまりじっくり聞かなくなる。こういうときはもっぱらトップの発言にくっついて通訳するが、横から「ちょっと、これ訳して」と割り込まれることもある。
さらにさらにお酒が回ると、もうほとんど会話らしい会話にはならず、「お互いに何か言う→それがウケる→双方大笑い→乾杯」のエンドレスな繰り返し。いやもうここが一番疲れる。この段階では、双方何か言って「わっはっは」と笑えることが何より大事なのだ。すでにみなさん「ど〜でもいいこと」をしゃべっているので(失礼)、ときに意味がよく分からない発言もあるし、男性ばかりの場合にはけっこうきわどい話題も出る。そんなときに言葉を忠実に訳していたらかえって場がシラケる。それでなくても通訳を挟むと会話にタイムラグが生まれてシラケやすいのだ。
この段階はもう何でもいいから相手に伝えて笑いをとることを最優先する。極端な話、多少内容が違っても相手が笑えばそれでOK 、双方とも肩をたたき合いながら大笑いできればそれで100%満足、といった状態になる。すでに私は通訳者ではない。こういうのは何というのかな。幇間(たいこもち)?
最後にもうこれ以上ないほどお酒が回ると、絵に描いたような「どんちゃん騒ぎ」になるので、私のお役は御免になる……はずなのだが、昨日の宴会はならなかった。
ある人が泥酔して自分では歩けないくらいになっている。その会社の正社員たちもかなり酔っていて誰もかまおうとしない。結局私が運転手に指示してレストランの入り口に車を横付けさせ、帰宅を促し、倒れ込む職員を車に引きずり上げ、帰路吐きたくなった人のために車を止めてもらい、マンションの自室まで送り届ける……はめになる。
きのうはみなさんあまりに「われ関せず」だったので、「手伝ってください!」と怒鳴ってしまった*1。これで多少酔いの浅かった社員が、自分の上司に肩を貸して部屋に送り届ける。私は後から鞄とその人が脱ぎ捨てた上着や靴を持ってついて行く。当然私はすでに通訳者ではない。こういうのは何というのかな。僕(しもべ)?

*1:だって私は一介の派遣社員なんですよ?