インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

お言葉ですが…3/明治タレント教授』(高島俊男/文春文庫/2002年)を読む。ご存じ『週刊文春』で連載の人気コラムをまとめたもの。このシリーズ、確かすでに五、六冊出ているはず。書店で見つけては順不同で買ってきていたが、この巻はまだ読んでいなかった。いつものように、本の隅がドッグイヤーで膨れ上がる。
この巻に収められた「ワープロがもたらすもの」とそれに続く「蟻の一穴『書きかえ語』」は、興味深かった内容のひとつ。前者では、ワープロがたたきだす間違った同音異義語が世の中に氾濫しはじめたことを憂い、後者では、それに先だって戦後当用漢字の採用から、さまざまな言葉が元の語義を失う方向で「書きかえ」させられていることについて、憤りが表明されている。

 いやしかしながらこのワープロなるものの出現は、わが国千数百年の書記史上、かつてない革命的事態なのですね。人がワープロで書いた文章を数々見ているうちに、小生もやっとその重大さがのみこめてきた。
 これまでは、字を知らないままで字を書ける、というようなことはあり得なかった。
 いや辞書で調べて書くことはあった、というかもしれぬが、あれは調べて知った上で書くのである。つまり書く直前に学んでいる。ポンとたたけばヒョイと出る、というのとはちがう。

高島俊男「ワープロがもたらすもの」/『お言葉ですが…3 明治タレント教授』

確かに高島氏が作家・阿川弘之氏の主張を紹介していう通り、「難場所・陸軍官学校」などという表現が文学賞の予選を通過した候補作にまで登場するのはゆゆしき事態だといえよう。またお上が決めた漢字の使用制限に、マスコミを先頭に「右へならえ」をすることで、「銓衡」→「選考」、「抽籤」→「抽選」、「交叉点」→「交差点」などと意味をなさない書き換えが市民権を得て、日本語がどんどん崩れていくという心配にも心から共感する。
ATOK16kousaten.jpgだが、以前の「ワープロ専用機」ならまだしも、現在パソコンに搭載されるようになっているインプットメソッドにはこうした言葉の誤りや「書きかえ語」の指摘をしてくれる機能が備わりつつある。例えば私の持っているATOK16では、上記の「非難場所」や「仕官学校」はいずれも「訂正候補」として正しい表記「避難場所」「士官学校」を教えてくれる。「銓衡」「抽籤」「交叉点」も、変換候補から選べるか、もしくはポップアップウインドウで示唆してくれる。これは実質的に辞書を調べるのと同じことなのではないか。辞書をひく作業が格段に効率化しただけだ。
もちろん、筆画を追いながら漢字を書くといった頭の鍛えられ方は依然期待できない。それでもこうした機能を自覚的に使えば、同音異義語を区別しつつきちんとした文章を作ることができる。だから「ワープロ」が必ずしも日本語を滅ぼす元凶にはならないんじゃないか、と思う。口幅ったく、かつ大雑把ないい方だが、要は文章を書く際に、その人がどれだけ言葉に自覚的になっているかということだろう。