インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

中年に惑ったら

いつも拝読しているシロクマ (id:p_shirokuma)氏(熊代亨氏)のブログ『シロクマの屑籠』に興味深いお話が載っていました。いわく中年危機に直面したら、つまり中年に至って精神的に参ってしまったら、髪型や車を変えてみるといい(パックン氏の発言だそう)。とっかかりとしてはカジュアルで取り組みやすいと。なるほど、そのままずるずると壮年期・老年期に移行していくよりはよほど前向きですし、熟年離婚みたいな家族や知人友人にも影響を与えるような大変化ではありませんしね。

p-shirokuma.hatenadiary.com

シロクマ氏が引用されているパックン氏の発言によると、アメリカではこの「中年危機」というのはとてもポピュラーに語られるテーマなのだそうです。でも日本では例えば「更年期」というキーワードでやや自嘲的に語られるくらいで、あまり積極的かつ前向きに語られるイメージではないですね。

私自身はすでに「初老」と呼んでも差し支えない年代に入っていますが*1、中年危機と呼べるような感覚が切迫してきたのは、10年ほど前にそれまで5年ほど正職員として勤めていた職場を退職することになったときでした。若い頃から何度も転職を繰り返してきたので「またどこかに職はみつかるでしょ」などと余裕をかましていたのですが、その年齢になると雇ってくれるところが急に少なくなっていくんですよね。

雇用対策法の改正によって「年齢に関わりなく均等な機会を与えなければならない」とされてはいますけど、それはもちろん建前です。実際にはあれこれの抜け道があって、実質的に年齢が高くなるほど難しくなる(特に正規雇用は)のはみなさまご案内のとおりです。

自分もその事実は知っていたはずなのですが、そこはそれ我が事として身に降りかかってくるまでは実感できないというのが愚かなところでして、あちこちに履歴書や職務経歴書を送ったものの見事にすべて無視ないしは不採用になるという事態にいたってはじめて「どうしよう……」と途方に暮れたのでした。いい年こいて世間知らずもいいところです。

結局はそれからフリーランスで何年か食いつないで、一時期は知人から借金をしてしのぐところまで行きましたけど、結局は今の職場にご縁があって、なんとか今まで仕事を続けることができています。でもこの職場にも定年というものがありますし、しかも気がついたらそれは数年後に迫っています。

いわば危機の再来ということになるのですが、不思議なことに今回はあまり心配していません。何の確証もないですけど、何とかなるんじゃないかと思って。思うに、若い頃から何度も転職したり失業したりしてきて、そのうえ中年危機とよべるようなものもあらかた経験しちゃったので(精神的にも肉体的にも)、なんとなく耐性のようなものがついたんじゃないかと思います。

捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ。学校を出てずっと同じ職場で勤め上げるのもそれはそれで貴いと思いますけど、こういう変化の激しい時代にあっては、なにやかやと毀誉褒貶を経てきた人間にもそれなりに福は残されているような気がします。身体が資本ですから健康にだけは気をつけていれば、晴れやかな気持ちで老年を迎えることができそうです。

そうそう、シロクマ氏が紹介されていた「髪型を変えてみる」のがアイデンティティの刷新につながるという話。私は昨年から白髪を染めるのをやめて「グレーヘアー」を気取っていたんですけど、想像していた以上に自分が年寄りに見えて(ま、その通りなのですが)、これはこれで精神的にーー仕事に対するモチベーションに影響するとかーーよろしくないなと思ったのでまた染めることにしました。


https://www.irasutoya.com/2018/11/blog-post_556.html

*1:現代ではだいたい50歳代後半から60歳代前半を指すように思いますが、かつては40歳前後のことを指したそうです。https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/kotoba/term/137.html