インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

ファクトフルネス

ハンス・ロスリング氏の『ファクトフルネス』を読みました。昨年からのベストセラーで評判はあちこちで目にしていたのですが、遅ればせながらようやく読んだ次第。評判通り、とても衝撃的で大きく目を見開かされる内容でした。

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FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣

ハンス・ロスリング氏の名前は、YouTubeのTED動画でかなり以前に知りました。IKEAの収納ボックスを使って10億人単位で世界の動向を解説しながら私たちの思い込みをひっくり返すこの動画は何度も見ています。『ファクトフルネス』でも、その動画で駆使されていた氏ならではのバブルチャートや、4つのレベルに分けて各国を見る方法、Dollar Streetに使われている各レベルごとの写真などが様々な角度から用いられていました。


Hans Rosling: Global population growth, box by box

この本を読む前と読んだあとでは、世界の見え方、いえ、もっと卑近な自分の周囲の世界すら違った色合いに見えてきます。ここに収められた10の思い込みはどれも一考に値するものばかりなのですが、特に私は「ネガティブ本能」と名付けられた、「世界はどんどん悪くなっている」という思い込みに興味を惹かれました。

もう何十年も前の学生時代、私は同じような「世界はどんどん悪くなっている」という考えに取り憑かれていました。そして今もまた、日々テレビニュースや新聞やSNSに接するたび、同じような感慨に取り憑かれそうになり、心がザワザワします。でもハンス・ロスリング氏はシンプルに、「世界についての暗い話はニュースになりやすいが、明るい話はニュースになりにくい」と指摘するのです。そして事実として「世界はどんどん良くなっている」のだと。

確かに子供時代を頑張って思い出してみれば、いまと比べてけっこう野蛮、と言って悪ければワイルドな世界でした。舗装されていない道は多かったし、道路の脇には「ドブ」があったし、子供たちは自分も含めて小汚かったし、どこでもタバコが吸い邦題でした。一度など、駅の混雑した階段で、母親の髪が前を歩いていた人の手にしたタバコに触れて焦げたことを覚えています。パオロ・マッツァリーノ氏が以前から繰り返し主張されているように「昔はよかった」なんて、そんなことはないのです。

先日ネットを検索しているときに偶然、勝間和代氏のYouTubeチャンネルで見た動画も、この「暗いニュースばかり」のバイアスについて語っていました。氏はテレビニュースを一切見ないのだそうです。それは「視聴率を獲得するためにテレビのニュースは原則として私たちの恐怖心や猜疑心や心配を煽るものばかりで構成されているから」だそう。それはちょっと極端なご意見かなとも思いましたが、でもハンス・ロスリング氏の言う「世界についての暗い話はニュースになりやすいが、明るい話はニュースになりにくい」と符合しますよね。


勝間和代の、テレビのニュースを一切見てはいけない理由を教えます

ハンス・ロスリング氏は、上掲のTEDトークでこうおっしゃっていました。

I'm not an optimist, neither am I a pessimist. I'm a very serious "possibilist."
私は楽観主義者ではありませんが、悲観主義者でもありません。私はとても真剣な「可能主義者」なのです。

いいですね。私もその可能主義者の末席に連なりたいと思います。