インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

「おばおじさん」の凋落

きのう、映画『かもめ食堂』が自分の心にはあまり響かなかったという話を書いたので、職場でもそのことを話題にしてみました。ちなみに私以外は全員女性の職場です。そしたら、みなさん異口同音に「そう? 私はすごく好きな映画なんだけど」という反応。中には映画のDVDまで買ったというファンもいました。


かもめ食堂

↓以下、映画のネタバレがあります。

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スクリーンショットは『かもめ食堂』のオフィシャルサイトより。
http://www.nikkatsu.com/movie/official/kamome-movie/

こんな会話が繰り広げられました。

私「だって、例えばお客さんがコーヒーを注文したら、その数秒後にもうコーヒーカップが運ばれてくるのはおかしいじゃないですか。あれだけ『コピ・ルアック』とかいって、コーヒーを丁寧に淹れる話がなされた後だというのに」

そう? 別におかしくないけど。

私「トンミ君が酔っ払ったリーサおばさんをおんぶして家まで行ったでしょ。で、ソファの上におばさんを降ろしたらすぐに帰っちゃうんだけど、普通そんなことする? しばらくは心配そうに見守るんじゃないの?」

そう? 別にいいんじゃない?

私「ガッチャマンの歌詞を歌いながら書き取るところだって、あんなに速く書けるはずないじゃないですか。よしんば書けたとして、ものすごく雑な字になると思うんだけど、画面には清書したような字が並んでいましたよね」

まあ確かに無理があるけど、それが何か?

私「もたいまさこ氏の演技は雰囲気があるけど、初めてフィンランドに来て、スーツケースが届かなくて、あんなに静かにしていられるかなあ。なんかこう、監督の演出も含めて日本映画にありがちな『雰囲気先行』で演技にリアリティがない……」

それはそうだけど、別にリアリズムを追求する映画じゃないんだから。キノコ狩りのシーンなんかおとぎ話の絵本の一ページみたいで素敵だったじゃない? マリメッコの服をいろいろと着てくるのがおしゃれだし、かもめもかわいいし、あの食堂の雰囲気も料理も魅力的じゃない? そういうのを楽しめばいいのよ。私は好きだけどなあ、ああいうテイスト。

……とまあ、こういう会話がなされたのです。

あああ、確かにそうでした。別に理屈で見るタイプの映画ではないのでした。素直に、かわいいものはかわいい、美しいものは美しいと「感じ」るだけでよいのです。どうして「演技のリアリティ」とか「物理的なありえなさ」ばかりにフォーカスしちゃってたんでしょう、私。

思えば十年以上前、読売新聞に取材されて記事になったことがあります。テーマは「おばおじさん」。この記事に私は、従来の男性とは違う感性という切り口で登場していました。「男は理屈を言ってばかりでつまらない」などとのたまっていたくせに、『かもめ食堂』の感想では見事にその「つまらない理屈」を開陳してしまいましたねえ。うーん、馬脚を現すというか地金が出るというか。

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この記事が新聞に出たとき、特に家族や友人には言わなかったんですけど、なんと実家の母親がその日のうちに電話をかけてきました。「あんた、あの写真の中に誰かいい人いないの!?」だって。当時私は離婚して独り者だったんです。

その後、この記事とは全く関係ない今の細君と再婚したんですけど、細君はいわば「おじおばさん」とでも言うべきオヤジ体質の人です。本棚には田中角栄とか乃木希典とかの本がたくさん並んでいますからね。そのオヤジ体質に感化されて、私も「おばおじさん」からただの「おじさん」になっちゃったのかしら、いかんいかん……と少しく反省したところでありました。