インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

キッシュとオニギリ

先日、トレーニングの帰りに地下鉄外苑前駅近くを歩いておりましたら、フランス風のおしゃれなデリカテッセンに出くわしました。お店で食べるのが基本みたいでしたが、持ち帰りもOKらしいので入ってみました。キッシュやデザートがおいしそう。おおぶりなキッシュが一個千円近くもするのに少々たじろいだものの、その日は夜遅くなって晩ご飯を作るのもめんどくさくなっていたので、細君のと私のと二つ買い求めました。あとはまあサラダでも作ればいいかなと思って。

店員さんはフランスの方とおぼしき外国人のお兄さんで、過剰な接客トークも笑顔もまったくない「本場ふう」(失礼)。でもそれが面白くて「何だかほんとにフランスに来たみたい」と喜んでいました。しかもそのお兄さん、素手でキッシュをつかんで箱に詰めてくれたのが興味深かったです。キッシュは食べるときに温めるものだから、素手でつかんでも大丈夫っしょ、的な。わはは、日本人のお客さんの中には「ええ〜っ!」と非難の声を上げる方がいるかもしれません。

いえ、別にフランス人をはじめとする外国人はこういうところに無頓着で、日本人は日本人で潔癖すぎる……と一般化した話をしたいわけじゃありません。たぶんそのお兄さんの、あるいはこのお店のスタイルというだけの話なんでしょう。日本人にだって私みたいにあんまり気にならない人間もおりますし。ただそのお兄さんの、とてもワイルドかつ自然な「てづかみ」に、なにかこう心休まるものを感じてしまったのです。ああ、これでも別に構わないんじゃないかって。

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よく「他人の握ったおにぎりが食べられない」という話題を目にします。おにぎりは基本ラップで包んで握るという方も。私など日常的にお弁当のおにぎりやいなり寿司などを素手で作っていますから、そういう方がかなりの割合でいるのだと知って少々驚きます(あ、自分で握ったのはいいのか)。じゃあ握り寿司なんかはどうするのかと思いますけど、昨今の回転寿司なんかだと、ご飯は機械が成形して、ネタはビニール手袋をした店員さんが乗っけてるんだそうですね。

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そう思ってデパ地下のお惣菜売り場などを見渡してみると、店員さんはみなさんけっこうな「重装備」です。以前「いきなりステーキ」では店員さんが口の周りを覆う透明なプラスチックの板状マスクを着用していて驚いたんですが、あれは「つばよけ」ってことですかね。むかしむかしの香港映画で、レストランの店員が運んできたスープの蓋をとって料理の説明をしたら即座に「下げろ」と言われるシーン(『古惑仔』シリーズだったかな?)を思い出しました。

同僚の英国人によれば、イギリスでも個人営業の小さなお店は、パンや焼き菓子などけっこう手づかみで入れているかなあとのこと。肉とかケーキとか、水分が手につきやすいものは手袋とかトングなどを使うけど、キッシュだったらそのまま手にとるんじゃないかと。「いきなりステーキ」の話をしたら「知ってます。初めて見たときはちょっと笑っちゃいました」と言っていました。

そんなきれい好きの東京の、その中心部に「キッシュ手づかみお兄さん」がいて、変な話ですけどなんだか「ほんわか」してしまったのです。これからもご贔屓にしたいと思います。もっともけっこうお高い値段設定なので、そう足繁くは通えないと思いますけど。