インタプリタかなくぎ流

“Might come in handy one day.”

通訳スクール

  中国人映画監督へのインタビュー、逐次通訳。

  一週間前に大まかな内容のアナウンスをして、さらに、ちょうどこの監督の映画がレイトショー公開中だったので、時間のある人は見に行くように伝えておいた。インタビューの中身はほとんどこの映画に関する内容だからだ。
  逐次通訳訓練では、ノートテイキングの方法についても少しだけ触れた。とはいえ、これはそれぞれが自分にあった方法を自分で開発していくものだから、教えるといってもノートの使い方や先達が考え出した記号の紹介くらいだ。
  教室の前方に大きなホワイトボードを用意してもらい、一人一人自分なりの方法でメモを取って逐次通訳してもらった。各自のメモの取り方を、お互いに見て学ぼうという趣向。それから全員の目が自分に向いている緊張感も味わってもらうため。全体的な傾向としては、漢字のみでメモを取る人が多い。人に見せるものではないのだから、もっと効率的なひらがなやアルファベットや、記号や絵を活用してはどうかと提案してみた。
  私自身の経験では、長文逐次の場合、メモにしても頭の中の記憶にしても、記号や絵などのビジュアルなイメージを立ち上げておくことができれば、後はそれ(メモなりビジュアル記憶なりの「風景」)を眺めながらストーリーを作って訳しきることができる……のだが、私は美術を学んだ人間なので、そういう方法が性に合っているというだけのことかもしれない。
  前回と今回使った音声素材は、実際にインタビューを受けている時のライブ録音だ。だから時に言い間違えたり、文法的におかしな物言いをしたりしている部分がいくつもある。原稿を読み上げているわけではないからある意味当たり前の現象だ。そんな部分について、一部の生徒から「言っていることがおかしい、文法的にまちがっている」という趣旨の発言が出て驚いた。
  全体を聞けば、大きな流れの中にきちんと収まっている発言なのだが、逐語的に訳そうとするから「間違っている」と感じるのだろう。たぶん頭の中では必死に中文日訳をしている段階だと思われる。聞こえてきた言葉を片っ端から拾って、全てをつなぎ合わせて翻訳して、口頭で訳出するなんて芸当、私にはできない。それよりも一分間なら一分間の発言をじっくり聞いて、全体でこういう流れのこういうことが言いたいのだなと理解した上で、そのストーリー全体をできるだけていねいに叙述してあげればよいのではないか。
  ここで必要になるのは、相手の発言を素直に聞いて理解しようとする態度と、そうした一種のサマライズを可能にする一定レベルの記憶力、それにメモの補助だと思う。あ、もちろんどんなに上手く訳せても人に伝わらなければ意味がないから、はきはきと分かりやすい適切な音量のしゃべり方も必要だ。
  私にとっては叙述すべきストーリーが「風景」であり、叙述する時はあたかもその風景を人に説明するような感じなのだけれど……。ううむ、こんなよしなしごとを繰り返していても、ちっとも生徒さんのためにならないな。