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しまじまの旅 たびたびの旅 134 ……一一重構:楊德昌

國家電影及視聽文化中心(TFAI)と台北市立美術館(TFAM)で同時開催されている、台湾の映画監督・楊德昌(エドワード・ヤン)氏の回顧展を見に行きました。

若い頃、夢中になって見ていた氏の映画は、日本でもロードショー公開された『恐怖份子』、『獨立時代』、『麻將』、『一一』、そして何よりも『牯嶺街少年殺人事件』。当時、台湾ニューシネマ、あるいは台湾ニューウェイブと呼ばれた映画作品の数々ーー楊德昌監督や侯孝賢監督を始めとするーーが日本でもかなりの話題を伴って公開されていたのでした。いまとなってはちょっと想像もつかないくらいのブームがあったのです*1

私にとっては楊德昌監督作品の、そのどれもが今でも心のなかに深い印象を残しています。とくに『獨立時代(邦題:エドワード・ヤンの恋愛時代)』は、まだ訪れたことのなかった台湾の、自分と同じくらいの年代の登場人物にかなり感情移入して見ていたので、とりわけ忘れがたい作品です。後年台湾で働くようになったときは、映画に出てきたその空気感をリアルに感じることができて、かなり興奮しました。しかも今回始めて気がついたのですが、監督が亡くなったのは私とほぼ同じ歳だったのですね。その意味でも今回偶然*2台北でこの展覧会に行くことができた僥倖を喜んでいます。

TFAIでは、楊德昌監督作品の多くをデジタルリマスター版で上映しているのに加えて、監督とゆかりの深いさまざまな映画作品も合わせて上映されているようでした。あいにく私は予定が合わず映画鑑賞はできなかったのですが、ロビーを使って開催されている展示の方はじっくり見ることができました。しかも展示だけなら無料というのに加えて、立派なパンフレットまでもらうことができました。他にもミュージアムショップで二冊ほど関連の雑誌を買いました。


www.tfai.org.tw

エントランス脇のガラスには『獨立時代』の登場人物たちのイラストがあしらわれていました。たしかこれらは、絵が得意でマンガやアニメ作品もものしていたという楊德昌監督自らの手になるものだったと思います。また展示会場には『一一(邦題:ヤンヤン 夏の想い出)』に出てきた結婚披露宴会場のセットを模した一角が。これもかなり懐かしいです。他にも絵コンテや場面ごとの俳優の出演表などもあり、ファンにはこたえられない内容の展示でした。しかも雨混じりの天候だったからか参観客がほとんどおらず、ゆっくりと贅沢な時間を過ごしました。




日を改めて次はTFAMの展示を見に行きました。こちらは監督の年譜と台湾の現代史を重ね合わせた展示に始まり、監督の全作品ごとに異なる趣向の演出がなされたかなり大規模な展覧会で、ほんとうに見応えがありました。懐かしい映画のシーンがいくつもいくつも登場して、なおかつそれらが現代美術のインスタレーションのように提示されています。また映画に関する資料や小道具の数々なども展示されていて、それらと映画のさまざまなシーンがリンクするような仕掛けになっていました。


www.tfam.museum

とくに『牯嶺街少年殺人事件』のコーナーは、裸電球や懐中電灯など、同作品で効果的に用いられていたアイテムを用いた非常に印象的な演出で、個人的にはとりわけ懐かしさが匂い立つような特別な感慨に襲われました。また『恐怖份子』に出てくる、分割された女性の写真が風に吹かれているシーンを再現したインスタレーションもあって、こちらもよく考えられているなあと(壁の後ろからランダムに風を出しているらしいです)。



こちらのページに展覧会のあらましが写真とともに詳しく紹介されていますが、あのインスタレーションの中に実際に身を置いて楊德昌監督作品のエッセンスを改めて感じることができたのはとても幸運でした(しかもこちらも、開館時間に合わせて行ったためか、参観客はほとんどいませんでした)。総じてこの二つの会場を使った回顧展は、一方で映像作品の連続上映、一方でインスタレーションによる展示と、それぞれの会場の特徴をフルに生かした展示になっていて、まさに回顧展と呼ぶにふさわしい充実した内容でした。

*1:ブームと言っても、それは私が中国語業界界隈に身を置いていたからこその感覚かもしれませんが。

*2:捷運内の動画広告でたまたま知ったのです。