“香蕉”はバナナ、“芭樂”はグァバ。どちらも台湾ではポピュラーな果物だ。……が、果物自体に特別な意味はないらしい*1。このフレーズ全体で“罵人話(罵り言葉)”になる。定訳などないし、もちろんそのまま訳したって始まらない。状況に応じて適当な日本の“髒話(下品な言葉)”を当てるしかないだろう。
この言葉のルーツについては、周星馳(チャウ・シンチー)が最初に使ったとか、いや『五福星』(懐かしいねえ)で使われたのが最初だとか諸説あるみたいだが、どうやら劉徳華(アンディ・ラウ)主演の映画『最佳損友(The Crazy Companies)』で馮淬帆(スタンリー・フォン)が言っていた台詞が流行語になったらしい。とすれば元は広東語で、全く違う言い回しだった可能性はある。台湾で“國語”に吹き替える際に“香蕉”と“芭樂”を使って創作したのかも知れない。
この“香蕉你個芭樂”は、北京語に星の数ほどある(笑)“罵人話”のなかでも何となく憎めないというか、どこか優雅なところさえ感じさせる言い方じゃないかな。「ミもフタもない」感じが少ないというか。あまりにもとんちんかんだから、インパクトも強くて人々の記憶にも残る。
「とんちんかん」で言えば台湾には“去你的擔擔麵”というのもあって、これは正統的(?)“罵人話”である“去你的蛋”の“蛋(dan)”と同じ発音で始まる“擔擔麵(担々麺)”をつなげて延長させたものだ。「森トンカツ、泉ニンニク」のたぐいかな。“去你的蛋”だと「何を〜!」と喧嘩になりそうだが、“去你的擔擔麵”なら「バカ言ってんじゃね〜よ」くらいで収まりそう。いや、この辺の語感は台湾人に聞いてみないと何とも言えないが。
この“去你的擔擔麵”は、アニメ『サウスパーク(南方四賤客)』の台湾版を作る際に創作されたんだそうだ。『南方四賤客』は他にもかなり多くの言葉を台湾ならではの流行語や時代を感じさせる言葉に置き換えていて、そういう文化のバックボーンがない私などが聞き取るのはかなり難しい。それにものすごい早口だし。
もうひとつ“蓮霧擔擔麵”というのも見たことがある。“蓮霧(レンウー)”は、これも台湾ではポピュラーな果物。イチジクのような形をしていて、リンゴをもう少しスカスカにしたような食感だがとてもおいしい。これもまあ二つの関係ない食べ物をくっつけた言葉遊びかな。ここまで来ると“罵人”度はかなり落ちるような気がするが、ま、これも語感のない私には判断しようがない。
どうして“蓮霧”なのかは知らないが、台湾の卒業式でよく歌われる“♪青青校樹,萋萋庭草,欣霑化雨如膏〜*2”を“♪青青校樹,西瓜蓮霧〜”とふざける歌い方があるそうだから、“蓮霧”も“西瓜”も、それに上記の“香蕉”や“芭樂”も、言葉遊びとして「いじりやすい」果物なんだろう。
それにしても食べ物が罵り言葉に使われるのは興味深い。大事に扱うべきものを粗末にするからインパクトが出るのか。王者格はやはり“蛋(卵)”で、北京語には“完蛋”“渾蛋”“滾蛋”“笨蛋”“王八蛋”など辞書にもスタンダードで載っているネガティブな語感の言葉がたくさんある。デモなどで抗議する時に卵を投げるのも定番で、実際の機能面(?)でも罵り王者の風格充分。
で、“香蕉你個芭樂”をあえて日本語に訳すとすれば……う〜ん、「おたんこナス」?_| ̄|○*3