インタプリタかなくぎ流

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しまじまの旅 たびたびの旅 113 ……泉鏡花記念館と金沢能楽美術館

金沢に来たのは初めてなので、ひととおり観光しようと思いました。が、なにせ人の多いところに酔ってしまう私なので、早朝から兼六園に出かけてきました。GoogleMapによれば、兼六園は朝八時から開いているそうです。しかもこの時期は「観桜期」で無料開放とのこと。

果たして兼六園は人がとても少なく、快晴の空と満開の桜とともに堪能しました。お隣の金沢城址も同様にまだほとんど人がおらず、ゆっくりと城址公園内を通り抜けることができました。自分も観光客のひとりなんですから、こんなことを言うのは大変わがままですが、やっぱり「人の少なさ」が観光においてはいちばんの贅沢だと思います。

お城をあとにして近江町市場を冷やかしたあと、前々から行きたかった泉鏡花記念館金沢能楽美術館へ。ここもほとんど人がいません。金沢は「加賀宝生」という言葉があるくらい能楽宝生流が盛んな土地柄で、「空から謡が降ってくる」という素敵な形容がなされる街です。能楽美術館のウェブサイトにもそんな説明がありまして、ふと興味を持ってウェブサイトの中国語版と英語版ではこのフレーズがどんなふうに訳されているのか見に行ってみました。

中国語版
此地也被形容成为“空气中都飘着能乐歌声”的城市。(簡体字版)
此地便被形容成「空氣中都聽得見吟唱」而蔚為特色。(繁体字版)
英語版
It was said that "Noh chants fall from the heavens", because artisans, including gardeners and carpenters, would sing Noh chants as they worked in high places such as in tree and on roofs.

中国語版はいずれも空気中に謡の声が漂っている(聞こえる)となっていて、空から降りてくるイメージはありません。英語版は“fall”だから「降りてくる」となっていて、しかも複数の“heaven”から降りてくると言っています。

私はこのフレーズについて、お茶屋街などの二階で謡の稽古をする声がそこここから聞こえてくる……といったようなイメージを勝手に描いていたのですが、英語版で補足説明されているように、職人さんたちが仕事をしながら謡を口ずさんでいる、それくらい謡が人々の暮らしに溶け込んでいる……といったイメージのようです。ネットで検索してみたら、「誰もが金沢では謡をたしなみ、植木職人が木に登りながら謡を口ずさんでいると、道を通る人が上から降るように聞こえたことからの例え」という説明もありました

お茶屋街の佇まいが残る一角を散策したあと、バスに乗ってホテルに戻る途中に兼六園金沢城址のそばを通過しました。いずれも相当な混雑になっているのを見やりつつ、午前のうちにホテルまで戻ってきました。